優しかった気持ち

人がつくったものが好きです。AKB48劇場公演。

劇団シアターザロケッツ第七回舞台公演「シャンパンタワーが立てられない」【20181007 14:00-@ポケットスクエア ザ・ポケット】

早紀ちゃんの舞台ということで観てまいりました。花雨のときと同じ会場だ!わかるよ線路沿いに歩くんだよね!と安心しきった私は、中野駅の北口と南口を勘違いして会場のザポケットから遠ざかるように北東に向かって歩いていたのでした…。南側に出直して歩いていってもT字路から会場にいく道もよくわからなくて、外観は同じだけど絶対に移転したんだと信じています(※していません)。

観たことある早紀ちゃんの舞台はいずれもIlluminus系列だったので、劇団シアターザロケッツの舞台は今回が初めてです。どんなお芝居をされるのか、楽しみにしていました。これから書く感想にはネタバレとか細部を含みますので閲覧注意でお願いします。

井上貴々 / 北澤早紀AKB48) / 飯野雅 / 網代将悟 / 根魏山リョージ / 渋木美沙 / 大橋篤 / 南名弥 / だんしんぐ由衣 / 渡辺啓太 / 森岡宏治 / 天野きょうじ / 林里容 / 加藤真由美 / 十二月一日絵梨 / 赤沼正一 / 松田佳子 / すずきつかさ

作・演出:荒木太朗(劇団シアターザロケッツ)
舞台美術: 仁平祐也
照明:高橋文章
音響:日影可奈子
舞台監督:林大介
宣伝美術:深田龍(深田デザイン事務所)
制作:小野義昭(劇団シアターザロケッツ)

薄暗い中みえる舞台セットは、斜めの天井のステンドグラスが綺麗で、壁掛けの燭台まであってとても凝った造り。赤いソファーのテーブル席が上下の手前と、ステージ奥に設置されていました。暗転しててよく見えないんだけど、下手奥には上に続く階段。地下にあるお店のようです。しかしすごいセットだ…撮可の時間帯があるということで、シャンパンタワーがそびえる写真(開演前かな?)がSNSに流れてきてたのは見ていました。また邪道なことを…と思った私でしたが、これだけホストクラブの雰囲気に凝って造ったセットだったら、少しでも写真に残したいし広めてほしいと思うだろうな。納得。

よく組まれたセットの影響なのか出演者の声がよく聞き取れない場面が結構あり、しかもそれに限って物語や伏線の説明っぽいセリフだったりして、一度しか観劇しなかった私には少々難ありという具合でした。なので以下の感想には若干の思い違いがあるかもしれません。それでも十分笑わせていただいた、楽しい舞台でした。

物語

店の存続が危ぶまれるホストクラブに、日付が変わると誕生日を迎えるという新しいオーナー候補がやってくる夜。店長とホスト、従業員たちはガラスの靴とシャンパンタワーでサプライズを準備します。でも全然仕事できない源氏名パンプキン氏がタワーを倒してしまって、サプライズの時間になる前から足りなくなったシャンパングラスの買い出し、来店したお客さんの接客と大慌て。こんなんで大丈夫か?と見ていて呆れるくらい、落ち着きなく締まりのないホストたち。シャツにリュックの冴えない姿で大学生・緑が入店して出演者がほぼほぼ出揃うと、Sing Sing Singでオープニングのダンス*1。曲中で、このあと演じられる登場人物たちのシーンが回想的にサイレントの演技で入ってきて、ちょっとテレビとか映画みたいなオープニング。凝ってます。

舞台セットでひときわ存在を放っていた白い文字盤の時計が11時から時間を刻んでいきます。普通セットの時計って動かないから、これ動いてるってことはマジで12時になるまでに台本がそこまで進むんだよな?っていう期待。そして演劇はその通りに進んでいきます。演出の荒木太朗さんのツイッターで興味深いエピソードが明かされましたが、その裏工作は適切な配役によるセリフとアイコンタクトでまったく違和感がなく進んでいて、全然気が付きませんでした。上演期間後の演者の皆さんのTwitterでとてもそわそわと気にかけながら0時までの演技に当たられていたことがわかりましたが、その感はまったく客席に伝わってこず(そのことを事前に知らなかったのも一理)、総じてプロのお仕事だなと感服でした。

ガラスの靴とかかぼちゃとか、シンデレラから拝借したアトリビュートや設定が散りばめられていたから、時計が0時を打つまでにきっかり芝居を進めるという緊張感は効果があったかもしれません。単にシンデレラから要素を借りてきただけでは実現しなかっただろう、立体的な説得力や体当たり感があったと思います。そしてその0時のサプライズに向けてせわしなく準備を進めるホスト達、そして次々現れる女性客の(結果的に)凛とした出で立ちというのは、男女の立場が逆転したシンデレラの再演のようにも思われました。

優しい嘘

緑の初めてのホストクラブを体験する大学生のそぶりに、私も、「あんな子が学生証偽造すると思います?」と信じて疑わなかったホスト達と同じように緑がついた嘘を本当だと信じてしまって、ちょっと面食らいました。「ステンドグラス綺麗ですね」と緑が気にしたあたりから、やっぱりもしかして?と思ったのですが(´ω`)

「何が本当で何が嘘か」「事実は1つでも真実は1つじゃない」不思議なくらい深い言葉を残していく緑。さっきまでのホストたちの茶番が信じられないくらい深いお題を突きつけられると、さっきのあのセリフって本当だったのかな?と虚構の世界の虚構がわからなくなってくる。だけど、1人ひとりのキャラクターがしっかりしているから、セリフでその人の視点や価値観が垣間見えて、うまいヒントの出し方だなって思いました。

早紀ちゃんってちょっと乱暴な口調とかシリアスなシーンだと声や身体が震えてしまわないか心配になってしまうくらいには女の子ですけど、舞台の上ではもう立派な俳優さんですね。堂々とした一人のオーナーでした。声をはって混乱するホストたちを制して諭す姿は立派なものでした。

冒頭からシャンパンタワーをぶち壊してドジばっかりのパンプキンが本当にまどろっこしくて、こういう物語には不可欠な役どころではあるんですが私みたいなせっかちはイライラしてしまいましたけど、幕が下りた後そんな彼が座長で挨拶してて、もう完全に度肝抜かれましたw パンフレットにも書いてあるし彼は全然嘘ついてないんだけど、私は個人的にカーテンコールまでずっと騙された感がありました(´ω`)w

松下幸之助信者の名言合戦、おもしろかったwあれ最高だった。知的な劇団だなと思ったし、素直にクリエイター役の人物をお客さんとして登場させて場を作っているのもよかった。あと個人的にはけんしろうさんがかっこいいなーと思ってみてたので、ナンバー1ホストっていうのは事実上は嘘かもしれないけど、私の中では嘘じゃなかったよ。

雅演じるお金持ちの真琴も、こういう素性のわからない少女っていかにもこういう場所にいそうで。雅の演技は初めて観たけど立派なものでした…ツンとして高級ボトルを注文するのにその実は寄せガールというww 三you亭への食いつきっぷりがいかにも楽しそうだったし、私もあのような演技をされる方とても興味あるので、三you亭さんが扇子でおそばすすってはる姿なんて、下手のソファーに座ってずっとサイレントでやっててほしいくらいには好き。おそばすすってるのほんとずっと観てたかった。

初回荒らしの静香が「私だって優しくされたい」と泣くシーンは胸が痛みました。さっきまでみんなから散々たんこぶ扱いされて、「ピーマンの肉詰め!」とか言われた時には私も大笑いしていたけど、ごめんなさいって思った。そんな彼女にエンジェルがガラスの靴を差し出しますが、想像の域を出ずサイズは合わない。悲しむ静香に「この靴が合わないということがわかったから合うものをまた探せばいい」と言う流れは名言合戦の集大成にもなっていたように思えて、とてもかっこよく聞こえました。誰だって夢を見たいですよね。それを叶えてくれるホストってロマンチックな人にしか務まらないお仕事なんでしょうね。

神無月になるとこの時期だけ月明かりがステンドグラスから店内に入ってくるから「神無」だなんて。ホストクラブの店名の由来までひっかけてくるとは、細部まで愛された舞台ですねこれは。素敵じゃないですかそんなの。何なの。観客くどいてどうするつもりなの脚本。

そして最後、退店する際の緑の言葉。「今日のような素敵な夜にシャンパンタワーを立てられないなんて、私の店ではありえませんからね」…いやかっこよすぎるだろ…溢れ出る品格……さっきまでのおいも学生緑さんどこ行きましたか…。演者が役の中で演技してるという二重の芝居に、やられました。ホスト達は「女、こわ!」なんて叫んでましたけど、このくらいの二重三重な一面って性別関係なく誰にでもあるもので、言い方を変えればそれこそ「優しい嘘」なんだろうな。

時計は深夜0時54分くらい。閉店。テーブルの食器はそのままにゴールドの布をかけて閉店を暗示させるの、最後までとても品がある。田舎のホストクラブの設定みたいでしたが、この舞台が終わる頃にはホストたちの振る舞いもまた成長したってことかな…なんて思いました。


シアターザロケッツの舞台、おもしろいですね。しっかりしていて、また観たいと思いました。後悔先に立たずですが、彩花ちゃんの佐山家シンフォニアを逃したのはかなり痛い…。また13期の子が立つようでしたら必ずや脚を運びたいと思いました(´ω`)ありがとうございました。

*1:OPを「It don't a mean thing」だと思っていたのですが、加藤真由美さんからリプライをいただき勘違いとわかりましたので訂正します!OPナンバーは正しくはSing Sing Singです。そのほか、劇中に流れるジャズナンバーはTake the "A" Train、Moonlight Serenade、In The Moodだそうですm(__)m10/22