優しかった気持ち

人がつくったものが好きです。AKB48劇場公演。

『オズの魔法使い』

邦訳ですが読了しました。
各文庫から各々の訳者で出版されている名著なだけに、どれを読もうか尻込みしていたのですが
たまたま先日(生まれて初めて)いった下北沢のヴィレバンにたまたま置いてあった河野万里子さんの新潮文庫です。
『星の王子様』など近年立て続けに新訳を出されてる方で、本書も今年発刊されたばかり。
あとがきを読むと、原書の言葉のリズム感を上手に翻訳されたようです。




たとえば私の大好きなディズニー映画は、もちろんストーリーはオリジナルではないのですが*1、「(ディズニーが有名すぎて)映画をみて作品を知った気になっている」と児童文学論の講師の指摘がささったことがある。
同じひとつのストーリーでも、映画には映画の、テレビにはテレビの、劇には劇の固有の魅せ方がある。
宮本亜門さんのミュージカルもとても楽しみだけど、それでも絶対に原書のすべてを再現することはできない。
2013年にはスパイダーマンシリーズのサム・ライミ監督が手掛けて映画にもなるらしいですが、それも絶対にウィズと同じにはならない。


そんなわけで原作という「文学」の存在を気にするようになったわけですが、
本当に、結構ちがうんですよね。
他のジャンルだと映像表現の限度や上映時間の長さが問題になってきますが、文学が一番自由で精緻。
さまざまなストーリーの根本にある存在として全うなスタイルだと思います。


オズの魔法使い (新潮文庫)

オズの魔法使い (新潮文庫)

  • 作者: ライマン・フランクボーム,にしざかひろみ,Lyman Frank Baum,河野万里子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/07/28
  • メディア: 文庫
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記憶のかぎり読書など殆どしないで育ったポンコツなので、スタンダードな童話も知ってるようで知らず、読んだことがありませんでした。
オズの魔法使い』も然りで、劇団四季ウィキッド」を以前観劇するにあたってはりきってしまった母が絵本を引っ張り出してくるなどありましたがwその程度で。
1900年に発表された童話です。





絵本でさわりを辿っただけではわからない細かい部分を掴むことができた。
他の形で作品化されたらカットされたり、演出の中に溶け込ませてしまって省かれてしまいそうな箇所も多く。
これは先日ツイートしたのだけど、
ドロシーが着用する「服はあと一着しか持っていなかったが、たまたま洗ったばかりで、ベッドわきの釘に掛けてあった。青と白のギンガムチェックで、何度も洗濯したせいで少し色あせていたが、かわいいきれいなワンピース」*2でした。
竜巻で飛ばされてからブルーがシンボルカラーの東の国を出発して、エメラルドの都に入場するまでですが。
Wikipediaによると、1939年に演じられた劇場版のオズの魔法使いでもギンガム衣装だったらしい。
:ドロシーはオズの世界に飛ばされた唯一のギンガムチェック選抜メンバーでした。








※名著なのでネタばれも何もないとは思いますが、一応、以下ストーリーに関わることを書きます。


原作を読んでよかったと思える一番の理由は、主人公一行のつっこんだ話がしっかりと書かれてること。
かかし、ブリキのきこり、ライオンにはしっかりとそれまでの経緯を語らせる部分があるし、
彼らの一人称や口調や過去からは性格がとてもはっきりしてる。
かかしがチャラすぎて、このキャラクターをそのままWIZのステージでにいにことISSAが演じたら有華ちゃんは一体どうなってしまうだろうと全力で心配ではあるのですが。
ドロシーが一番かげが薄いんじゃないかな?と思わせられるくらい。
けど主人公ってそういう役どころなんでしょうね、きっと。



脳味噌がないことがコンプレックスのかかしも一生懸命いろいろ考えたりだとか、
ハートがないことがコンプレックスのブリキのきこりも、ハートで感じられないぶんを頭で考えて、優しい行動をしたりだとか、
勇気がないことがコンプレックスのライオンも、こわがりながらも仲間を守るためにがんばって吠えてみたりだとか、
結局はペテン師だとばれてしまうオズも、魔法使いとしては出来が悪いにしても一生懸命にみんなの“願いを叶える”手段を考えてあげる。


旅をしていたドロシーに助けられた仲間たちや、一行に助けられた各国の人びと(生き物)は
時代柄もあるのでしょうが、無償でドロシーの世話をしてあげる。
それを繰り返して、最後の最後で、旅のいちばん初めにもらった銀の靴の魔法を知る。
目指していたオズの行ないが全部“うそ”だと知っても、それまで泣きながら続けた旅の労苦をムダと思わずに、オズを許してあげる。



いろいろ世界を知って、裏のからくりまで目の当たりにして、
それでもそのしょうもない世界を許しながら、自分がはまる枠を選んで生きていくんだなと。
そして、そんな最後の場面を読みながら、頭の中では自然と全力で「HOME」が再生されてた。
なんて優しい物語だろうと。




作者のボーム自身、いろいろな職務経験をしてアメリカのあちこちで生活をして波乱万丈な人生の終わりごろにこの『オズの魔法使い』で歴史に名を残した人なので
本当にいろいろな現実を見て、いろいろな色を知っている。
物語内の世界観はおとぎの国というのは胡散臭いけど、舞台設定であるアメリカから抽出されたもっと抽象的なもので、すっと入り込める場所。


登場人物はみんなアベコベだけど、彼らと実直な言葉との間に自分を重ね合わせられる絶妙な隙間がある。
ドロシーはことあるごとに泣いてばかりいるけど、
それでもどうにか切り抜けようとするみんなの一生懸命さに気持ちがあたたかくなれる、素敵な作品です。
有華がミュージカルの主役を獲得してなかったらこの原著にあたるということもしなかったのかなと思うとぞっとするくらい。
ますますWIZが楽しみになったし、この物語自体が好きになれました。


 :みなさんもぜひ読みましょう(*´ω`*)  

*1:ディズニーオリジナルの作品ももちろんあります。たとえば『わんわん物語』。

*2:本文掲載書、25頁