優しかった気持ち

人がつくったものが好きです。AKB48劇場公演。

マジックトレードセンター【20160416 15:30〜 @シアター風姿花伝】

あやなんこと篠崎彩奈ちゃんの初舞台「マジックトレードセンター」を観てきました!
組閣で推しのチーム4からは離れてしまったのですが、まりんちゃんや彩希ちゃんとも親しくしているメンバーだし、本当に可愛らしいお嬢さんだし、何てったってゆいなん推しの私なので(`・ω・´)すぐにチケットを予約したのでした。あやなん以外はダブルキャストで構成されているのですが、今日観たのはBキャストでした。
以下、結構はっきりと内容やストーリーを書いているのでネタばれなど気にされる方は閲覧注意でお願いします!

Bキャスト
佐伯恵太(オズ)、篠崎彩奈(ユムナ)
三澤康平(イマジ)、高山璃奈(メル)、早川紗永 /Dollふ(クエ)
速田隆成(淀満)、田邉敬太(暁)、中野陽介(雷鳥)、森 朱里(ジュダ)、佐藤雄一郎(ベン)

会場のシアター風姿花伝は初めて訪れましたが、それにしてもとっても小さい劇場でした。ビルの2階が劇場になっていて、秋葉原AKB48劇場よりもはるかにこじんまりしていて、キャパは100名ほどらしい。ステージといってもちょっとした段差しか高さがなく、最前列の人が足を伸ばしたらステージにどんと乗っかってしまうくらいの近さ。しかもその最前席はおそらくもともと席と想定してなかったところに足のない椅子(ほぼシート部分だけ)を置いた即席的なもので、そこに座ってる方はしゃがんで観てるような態勢でした。私は4列目くらいの中腹の席から観ましたが、あの最前列はド迫力だったろうなぁ。
さらに特徴的だったのは、ステージの左右が壁になっていたこと。これも建物の構造の都合でしょうか。争って詰め寄られたり襟ぐりつかんだりする時はその壁が有効に使われていましたが、なかなか舞台上で観ることのない演出だったのでとても珍しいと感じました。舞台奥の両端に袖に引っ込む出入り口があるようで、舞台上のセットがかきわりの代わりになっていて見えないようになっていました。
そんなこじんまりした舞台だから、話してる人が後ろを向いたまま、主要人物に話しかけるというのがかなり多かったです。仲間同士の歓談も、2人きりでの密な会話もそうでした。普通だったら声が飛ばないから客席に背を向けたまま台詞を言うってあまりないことだと思うのですが、それもこの劇場のなせる技なのでしょう。
逆に演者にとってここまでダイレクトに客席の熱が伝わってくると、緊張するだろうな…。あやなんも「今日劇場にいったらほんとに小さくて どこからでもよく見えます 恥ずかしいくらい、、」とぐぐたすに書いていました。魔法を手に入れた御祝いで乾杯する場面で、話を聞いてるユムナが身を乗り出した時にコップにネックレスが当たってコツンって鳴った音がこちらの席まで届くほどです。なかなかない上演環境でした。


物語は、百年戦争の終焉後、また静かに戦いが始まった頃の話。その戦争の英雄を父に持つオズは生まれた頃から自然に備わるという魔法の力をいまだに見いだせず、魔法を使えない自分を非力に思っている。魔法組合でユムナ、イマジ、メルの仲間たちと一緒に、活動をしている。それはマジックトレードをくり返して強い魔法を手に入れていき、最終的には「運命を支配する魔法」を使えるようになって世界を平和に導くこと。
マジックトレードセンターは、魔法を宝石のような形状にしてトレードするシステムが確立している。みんなiPadみたいなタブレットをあたり前のように使っていて、それで魔法のオークション情報を逐一チェックしてより強力な魔法を手に入れようとしたり、自分の近くにどんな魔法を使える人がいるかを確認したりすることができる。
仲間たちの死や魔法によって歪められた感情や想いが交錯していく中、5年前から淀満と暁が切り盛りしていたマジックトレードセンターが軍の支配下になってより魔法による戦争が激化する。魔法のトレードで手に入れた強力な魔法で平和へと導こうという想いと、魔法のトレードのせいで魔法の流通が頻繁になり非道な戦争が後を絶たない現実。

こんな感想では演者が喜ばないのわかってるんですが、ユムナかわいい。あやなんは舞台初めてとは思えない演技だったし、出番も多かった。声の出し方やかつぜつが全然違っていて、最初に出てきた時は彼女の声だとわからないほど。公演のMCなんかでぐへぐへしてる(※表現に悪意はありません)あやなんとは180度違う人でした。ウェーブの髪をポニーテールに結っていて、終始一貫の衣装は彼女の魅力が出るような腕や肩の部分が少し露出したかわいらしいものでした。
まず、主人公じゃないけれど淀満とかけ合いになる2人のシーンは結構どれも印象深くて、綺麗なシチュエーションでどれも好きだったな。あと、淀満役の速田さんが長身で、あやなんが彼の肩までしかないのがなんとも可愛らしくてww雨は好きですか?のくだりとか最高に好み。初めて使ったのが雨を降らせる魔法だったというユムナ。雨は気分が落ち込むけど自然に恵みをもたらすものでもある。「私もこうやって誰かのためにはなってるのかな」……なってるよユムナ。そして俺は淀満になりたい2016スプリング
ユムナとオズのシーンももちろん何度もあったけど、こちらもよかったなぁ。ふさぎこんでるオズに「世界を救うんでしょ?」ってもうまるで落ち込んでる子どもを元気づけるかのような振る舞いだったり、死んだイマジの幻影が何も呼びかけてくれなくなってしまったとオズがわめき散らす時の優しい抱擁などだな…。ユムナは優しくていつもオズのことを想っている。仲間や人々がバタバタと戦禍で死んでいくなか恋愛による幸せを夢みる雷鳥にオズはつらく当たってしまうんだけど、あんな素敵な彼女がいたらあんた幸せになれるよオズ。そのことに気が付くことができたら、彼は幸せになれるんだろうなぁ。ユムナ俺と一緒に世界を見てまわろう2016スプリング

オズがユムナを置いていった「あの時と同じ」と言ってるところに攻撃の轟音があって、ユムナが被弾するあのシーンのあたりから、時間の前後感覚があやしくなりました。過去の回想にいったのかなと思ったけど、あれはそのまま物語が進んでいったってことでいいのかな。ユムナが被弾して腐敗の魔法に浸食されてて身悶える演技は息を飲みましたわ…極限状態の声の出し方。難しかっただろうなあのシーン。
その腐敗魔法を解除するために仲間のメルが助けてくれるんですが、このメルはつらかった…。心やさしい女の子ですが、かつて手放してしまった魔法を思い出したいとクエに願い出た時に、百年戦争時には拷問専用の魔法使いだったという過去の記憶も呼び戻されてしまい、ストレスで狂った魔法使いに変貌してしまいます。そのおかげでユムナは事なきを得るんですが、メルはクエに連れ去られて戦場へ。魔法を湯水のように使い、何人も人を殺して、精神的に参っておかしくなってしまった自分すら正当化した人格に戻ってしまう。魔法を乱用するクエはメルの記憶を魔術的に思い出させるけど、クエとメルとユムナの3人のシーンでは、ユムナの呼びかけで心やさしいメルを取り戻して、激しい躁鬱の中でクエに打たれる。
メルも、ベンとジュダも暁もそう。優しい想いや正気を打ち消さないと生きていけない。戦争で経済がまわっていて、人を殺せば殺しただけお金という報酬になって自分に還ってくるような世界で、“心”を持ったままどうやって生き延びるか。

ユムナもオズもその一人。戦争が激化するにつれて、ユムナはどんどんたくましく見えていった。それは「オズを守りたい」という想いが強く表れていたのでしょう。迷いがなく自分のやるべきことに進んでいく。軍に引き渡される直前のマジックトレードセンターで、ユムナはついに淀満から「運命を支配する魔法」を渡されます。そしてユムナからそれを託されたオズは、その魔法の力で世界から魔法を消すように、そして、ユムナが傷つかないように、オズが死んだら彼の存在がユムナの記憶から消えるように望みます。
オズが倒れるシーンはあれ、ユムナ泣いてたかな。目元や頬の拭い方にものすごいリアリティがありました。オズが犠牲になって魔法は確かになくなったのだけど、それでも人々は武器を剣や銃に変えて戦争を続ける。オズが望んだ平和な世界にはならなかった。そんな悲しみに暮れているユムナが、だれかが歩み寄ってきた気配に気がついたようにふっと顔を上げて一言、「誰?」。これで舞台が暗転します。
次の最後の場面はもう流れが全然違っていて、食べ物の買い出しから帰ってきたユムナと、料理店マジックトレードセンターの淀満のシーン。それまでひたすら鳴り響いていた爆撃音は、雨の中でふくらみを持った雷鳴に変わっています。西の方でまた戦争らしいですよ、と魔法だけが消えた世界。そして最後、お店に黒いマントを纏った人がやってきて、「ようこそマジックトレードセンターへ!」と声がけしたユムナのほうにふっと視線を投げる。暗転。これで舞台が終わりました。
映像がブツッと切れて画面が真っ暗になるかのような演出が後半何度かありましたが、こわかった…非常にこわかった。何あれ。映画やドラマだとよくある演出だけど、舞台では観たことがなかったし、ああいうシリアスな場面での急展開で用いられると、自分が予期していなかった物語がさーっとなだれ込んでくる感じがしてぞっとする。そんな不穏なアクセントを残して、舞台は幕を閉じました。カーテンコールでは一番最後にあやなんが登場して、ご来場ありがとうございましたの一言もあやなんが声をはって言っていました。新生の若い劇団の舞台を観に来たような感覚。こうやってキャストが並んでみると、10人しかいなかったことに驚きました。もっとたくさんの人の気配がしていたんだけど、それだけのエネルギーが発散されていたんでしょうね。

ここからは憶測での感想

物語は、魔法が顕在する時代ということで登場する衣装や事物はどれも古めかしい感じがしましたが、一方でタブレット端末が出てきて登場人物それを当たり前にいじっていたり、魔法を物に変えてトレードするなどの発想はとても現代的で、文化の時代観がまじりあって新鮮でした。ただ、シーンのひとつひとつは重要なんだけど、最終的にそれらの点を線で結び切れていなかったり、はっきりと物語が見えてこないと感じる設定もありました。一度観ただけですし、見落としがあったのかもしれませんが。

観劇後、オズがユムナを一人にしていなくなってしまった「あの時と同じ」という会話のくだりが解決しないまま終わっちゃたなぁ…回想シーンもなかったよな…とすっきりしなかった気分で思いを巡らせていて、はっとしたんです。
もしかして、この劇はループしているのではないかと。
もしも、オズがユムナを一人にしていなくなった「あの時」というのが、運命を支配する魔法を使ってオズが世界から魔法を駆逐し、唯一の魔法使いオズになって果てたあのクライマックスの場面のことだったとしたら…。

この劇の冒頭は、無数の人が倒れていて彼らはおそらくもう死んでいるんだけど、それをユムナが肩を揺すりながら雨のような爆撃に狼狽してるシーン。その奥をマントを纏った人が無感情に通過していく。そしてそれはユムナがうたた寝で見ていた夢で、オズの声掛けで目を覚ます。それはただの夢だったのかもしれないけど、百年戦争で負ったユムナの過去の光景だったのかもしれない。そしてその過去に、マントの人物がいた。

「運命を支配する魔法」を使ったことのある呈でその時のことを淀満がユムナにして聞かせた話(冗談か本当かは曖昧)では、その魔法を使った後の記憶がないということだった*1。だから、あの魔法を発動させた後、オズは生死にかかわらず記憶を失ったと思う。
けど、この劇中の世界では、イマジのように死者と対面できる魔法があったりしたから、一概に「死」が本当にその人の消滅ということにはならないし、失った記憶も仲間たちの呼びかけで容易に戻ってきます。オズは記憶を失った状態でまた表れるのではないか。そしてそれが、最後のシーンのマントの人物だったのではないだろうか。私は、最後の淀満とのシーンのユムナは、オズを忘れていなかったんじゃないかと思います。ユムナがまたオズに出逢えることを願いました。

不穏なマントの人物はどこの時代でも影のように徘徊していて、それは戦争がいつの時代もなくならず、またいつ起こってもおかしくない世界と似ています。劇の最後に登場するマントの人物は(体形的にも)おそらくオズで、その時彼は世界で唯一の魔法使いとして存在していたのだろうと思います。魔法は決して失せたわけではなく、また魔法を欲した人々によって創造され、恵みをもたらしたり誰かを傷つけたりするんだろう。
そういう文脈を考えると、物語全体が終わることのないループ状になっているのも腑に落ちます。すべてのことは例えそれが過ちだったり多くの犠牲を払ったとしても、無情にも時代を超えて同じようにくり返していますから。

「魔法」は現代社会の圧倒的なパワーを象徴する抽象的なものに聞こえました。現に紛争は後を絶ちませんし、人々はどんどん豊かで何でもできるようになりたいという望みを強くしている。実際にいろんな技術があってどんなことでも実現できるようになっているし、これからももっとその技術は進歩していくでしょう。
でもこの舞台中で印象的だったのは、「魔法の力」と「人々の絆・想い」が同じくらいのレベルで混在していること。同じこと(たとえばメルの記憶を呼び覚ます)を、魔法で解決する人もいれば、想いを通わせることで心の底から記憶を引き出そうとする人もいる。その後者の意味での“魔法使い”として主人公のオズ、ユムナがいたように思います。
ユムナが腐敗魔法に苦しめられている時、オズの呼びかけでメルに正気を取り戻させて、メルの魔法がその腐敗を止めてくれます。でもその間ショック状態だったユムナはその記憶がなく、気づいた時にはその場からメルもいなくなっています。ユムナは「オズが助けてくれたの?ありがとう」と言います。その時の彼女にとって、魔法使いはオズの他にいなかった。ユムナはオズが自分を助けてくれたのだと信じたし、そう信じたいと望んでいたようにも思う。本当の「魔法」ってそういうものなのだと思います。

初々しさのある舞台で一緒に考えさせられることが多かったですし、劇場の特異性もあってとてもおもしろい観劇経験ができました。観に行ってよかったです。新しい世界と出会わせてくれてありがとう、あやなん。
1週間の上演期間は早いもので、今日3公演を終えると明日の2公演がもう千秋楽だそうです。がんばれー!

*1:淀満がなぜ「運命を支配する魔法」を必要としたのかは劇中には出てこなかったけど、おもしろい解釈の感想を書いていらっしゃる方がいたので貼らせて頂きます。確かにこの解釈をすると、筋が腑に落ちる感じがします。→ http://onicchan.cocolog-nifty.com/blog/2016/04/post-cc1c.html