優しかった気持ち

人がつくったものが好きです。AKB48劇場公演。

『ネット炎上の研究』と、AKBヲタとして考えること。

いろいろ縁があって『ネット炎上の研究』という本を知って手に取ったり、講演*1を拝聴したりする機会がありました。
著者の田中辰雄先生、山口真一先生は、お二人とも律儀でまじめで気さくで、信頼できる研究者です。そして本書は表紙のカバーデザインも秀逸です。買ったその日は嬉しさでずっと表紙眺めてました(もちろん内容も読んでいますw)。最近では山口先生があちこちメディアに引っ張りだこなので、「ネット炎上加担者は子持ち30代男性…?」とか「炎上参加者はネットユーザーの0.5%」みたいな記事やテレビ番組を見た方も多いのではないでしょうか。

私は長らくAKBのヲタクをしてますが、メンバーの炎上を何度も見ることもあるし、「炎上」という言葉のレベルに達していないとしてもネット上の誹謗中傷で苦しんでいる友人の姿を何度も見てきました。どうにか解決の糸口はないのかなと思うことしばしばな私にとって、「ネット炎上」はとても興味関心のある大きなテーマです。
なので、当ブログのいつもの記事とは毛色が違いますが、この本の研究や講演でのお話についてまとめるとともに、そういえば私の周りにもこんなことあったわということに関して私見を残したくて、ブログに書くことにしました。
もちろん私はこの領域については専門家でも何でもないので、ただの一読者の個人的な感想です。


『ネット炎上の研究』

ネット炎上の研究

ネット炎上の研究


本書では、先行研究を踏まえて「炎上」の定義を以下のように掲げた上で、計量経済学の手法でウェブ上で行ったアンケート結果をもとに、ネット炎上に加担している人に該当しやすい属性を整理しています。またこれまでに話題になったネット炎上の事例の整理から、なぜ炎上が起こるのか、その原因や解決策が考察されています。

炎上の定義を「ある人物や企業が発信した内容や行った行為について、ソーシャルメディアに批判的なコメントが殺到する現象」とする。
(本書5ページ)

 
調査によると、ネット炎上の加担者、つまり誹謗中傷のコメントを浴びせる人物は、インターネットユーザー4,000万人のうちたった0.5%に留まるということです。
こんな学術的な話を、趣味の領域に持ち込もうというのはやや仰々しい聞こえになるのかもしれません。でも、炎上によって傷ついている人にはそうじゃないよってことを知ってほしい。それに、悲観的・感傷的になっている人には、悲劇の主人公やってんじゃねーよと、怒りにも似た感情が芽生えてくるのも正直なところです。たった数名の言葉のために意見を引っ込めてしたり、傷ついたり思い悩んだりしないでほしい。世界中から非難されているように見えてしまうけどそんなのは幻想なんだというインターネットの実際を、メンバーも、ファンも、一般人もみんなに知ってほしいです。
ここから以下は、本書のネット炎上の研究と併せて2回の講演、著者2名に加えて弁護士の福井健策さん、津田大介さんが登壇した際のお話を加味した、私の個人的な意見です。より鮮明に現状が見えてきた気がしています。

ネット炎上の事例として挙がるさっしー

本書では、企業、タレント、一般人個人の炎上をはじめ、非常に多くの「ネット炎上」の事例を取り上げて、パターンを分析・整理していて、そのなかでは、当ブログの領域周辺からいくと「指原莉乃恋愛事件」が挙げられています。報道された事実のみが簡潔に載せられているだけに留まりますが、炎上の事例として紹介されています。
指原のスキャンダルって2012年で、もう4年も前の出来事なんですね。移籍発表のANNなどリアルタイムだったのであっという間感否めないな…それで、その後の指原を見てみると、このスキャンダルをきっかけに秋元康Pから言い渡されたHNK48への移籍以降に信じられないほどの躍進をして、選抜総選挙首位を3度獲得、昨年今年は2連覇という前人未到の快挙を遂げました。同時に彼女のHKT48のプロデュース力は並々ならないものがあり、著書『逆転力』を読む限りでも大変なカリスマ性を持っていることがわかります。
指原の事例は、炎上としては結果的に「吉」と出た珍しい例だと思います。

炎上とその後(私がみたメンバー数例)

でも、すべての人がスキャンダル等の炎上を乗り越えて、ポジティブに進んでいけるわけではありません。ここではあえて明瞭に事実を挙げて書くことをしたくないので、名前を伏せて書きます。
例えば、スキャンダル発覚がきっかけで卒業をしたメンバーがいます。それまでのAKBでの功績すら否定されるようで、「卒業」という言葉すら当ててもらえずに「脱退」をしました。その後も芸能活動を続けていますが、しばらくの間はAKBにいた事実を後ろめたく感じるようなすさんだ言動が続き、見ているこちらとしても胸が痛い時期がありました。
また、他のメンバーは、自分がニュースで取り上げられるのを極端に恐れている。在籍時は握手会すっぽかしだのサボりだなの何かあるたびに散々まとめ記事が立ちました(今は握手会を体調不良で休んだくらいでは叩かれない。そういうことするメンバーが増えているから)。企画側の落ち度でもすぐまとめられて炎上、卒業の1週間直前にはスキャンダルをすっぱぬかれ、卒業してからは太っただ何だと叩かれることしばしば。このブログにもコメントが付いたことがありますが、非常に不快でした。
また他のあるメンバーは、卒業後にスキャンダルがまとめサイトに上がってきました。本人は卒業後は芸能活動を続けていないので、SNSなどでのコメントは一切出しませんでした。コメントする機会を失った後での祭り上げは卑劣だなと感じましたが、沈黙が功を奏したらしく鎮火は早かったです。
その他、SNSに投稿した画像やコメント、活動の内容が非難されることも多々あります。

ファンの「炎上」

メンバーだけでなくファンが「炎上」するケースも目立つ気がします。ただ、コメントが本人に殺到することは稀に思えるので、「炎上」というには定義が違っているかもしれませんが。本人にとって不快なご意見とともに、掲示板上で名指しでに叩かれているとかまとめサイトに晒されるなど、本人からは遠い場所で起こっている。いっそ定義上の炎上よりも陰湿でエグいことが多い気がします。
48以外の界隈のことは全く無知ですが、AKBの場合は「こじはるおじさん」「メモリスト」をはじめお馴染みのファンの存在が大きいカルチャーはグループの性質の一部になっていたし、メンバーに認知されているファンは他のファンからの注目や支持が大きくなる。個々人がSNS等々で「ファンのアイドル化」しているような感覚があり、それもファンの炎上が相次ぐ一因なのかなと思います。
そして、こういうファンの炎上については、正義感からの祭り上げという以上に、「嫉妬」からくるように思う。イベント当日、会場で握手やコンサートを楽しんでいるファンがわざわざリアルタイムで巨大掲示板に中傷を書き込んだり、まとめたりするでしょうか…。私にもお金のない学生ヲタクをやっていた頃は、自分がファンであるということを確立するために、何かにつけ持論を展開していたそんな時期がありました。なのでその頃は毎日ツイート数100越えが普通でした。だから何となく心中ご察しする。
本書によると、Twitterは、たとえばfacebookやLINEに比べるとオープンな発信ができるため、閲覧率も炎上発生率が非常に高いそうです。ツイッターでそのような炎上やトラブルが怖くて、クローズドなSNSに移行したり発信を萎縮したりしてしまう人も多いらしい。一方で、私のような意見感想ばんばん言いたがりの変態ツイッターユーザーは自己顕示欲が高いため生存してしまいます。

エゴサ

自分の名前を検索するいわゆる「エゴサ」で出てくる掲示版やまとめ記事の内容は高が知れている。それにも関わらずやめることができない。朝井リョウの小説『何者』には、巨大掲示板の意見を検索し閲覧することで自分の視点の正しさを肯定しようとする主人公が登場します。そのことは地の文章で「僕は自分に麻薬を打ち続ける」と表現されています。自分の意見と共鳴できる言葉を、何らかの救いを求めている現れだと思うけど、エゴサに救いを求めたところで、それは単なる「麻薬」であり、現実的な解決にはならない。
本書ではこのように自分に都合のいい情報だけが届くように見る情報を限定してしまう、それ故に自分の意見が増強されていく現象を「エコーチェンバー」と紹介しています。その点では私も、自分のTwitterの使い方は偏っているなと感じています。あくまでもプライベートのツールとして使っていますし、自分にとって不快なものは見たくないですからね。フォロワーが何百、何千に達しているアカウントでも、ミュート機能を使って見たくないアカウントを制御しているというユーザーは多いのではないでしょうか。

ヲタクとインターネット

私はインターネットを始めてからというものいわゆる掲示板やまとめサイトの匿名のご意見なんか汚物の掃き溜めだと思っているし、どうしてHNですらない匿名でしか意見を言えないのかがよくわからんし、これらの恩恵なんか今のところ受けたことがないので、これらのインターネット上のツールに大して好意的になるというのは非常に難しいです。(辛辣ながらこの記事なので本音を書かせてもらいました)
ヲタクをしていると少なからずまとめサイトの記事URLがツイートでまわってくるのを目にすることがありますが、肯定的なものはいいとして、だれかを叩いたり祭り上げたりする記事は本当に嫌気がさします。
津田大介さんは講演で「安易にリツイートで拡散している、無自覚の炎上加担者がいる」ことを強く指摘されていました。おもしろいなーとなんとなく仲間に向けてRTしたとしても、それが連鎖すると物凄い速さで火がまわっていく。ネガティブなニュースに関しては特に注意する必要があると思うのですが、大好きなメンバー達のスキャンダルを含めた“ちょっとした失敗”をまとめたツイートなりURLがリツイートで拡散されている。それが、メンバーのイメージに致命的な影響を与えることがあるにも関わらずです。
記事を作っている人の意志が入っているのに「世論」と一般的な見解であるように見られることが多いまとめサイトですが、キャッチーな見出しで興味を引き付けるだけ惹きつけて内容が伴っていない場合もある。それなのに、URLから飛んで記事を読んだ数(アクセス数)はなんと50%くらいらしい*2。そうやって、掲示板やまとめサイトが目に付いてしまう故に、「うわさ話」レベルの記事がグーグル検索の上層に躍り出てきてしまう。
大好きなメンバーを、仲間を本当に傷つけているのは誰なのだろうかと、頭を抱えてしまいます。
私はこれを「仕方がない」で片付けたくないなと感じていました。その点で、本書の「諦めるには早すぎる」という姿勢に非常に共鳴しました。

つまりは言葉

本の結びには、(この記事の冒頭にも書きましたが)ネット炎上の実際を知り、すべてが敵にまわったわけではないんだということをしっかり認識することが大切とあります。
これは私の意見ですが、インターネットは言葉の文化ですよね。言葉がわからなければ検索もできないし、誰かにメッセージを伝えることも難しい。
ちょっと前に保育所の審査に落ちたことを嘆く女性のブログが話題になりましたが、「死ね!」じゃ何も伝わらないです普通。自分の気分を害した“うざい”事物に対して「死ね」と言うことで存在のすべてを否定する行為を求めるのは、人に向けて良い態度ではありません。例えそれが、子どもの保育所に落ちて仕事と両立が難しいという切実な訴えだったとしてもです。
私が大切だと思ったことは、インターネットの構造や、目に見えることの裏の実際を知ることだけではなくて、ひとりひとりがもっと言葉を大切にして、伝えたいことがあるならきちんと道義のある態度にしないとダメだということです。
言葉による行為で傷つくのが炎上だと思います。いまや誰にとっても身近な問題だと思います。いろんな人に知って、気持ちを楽にしてほしいです。そう願いつつ、このブログを終えます。


とても興味深いし多岐にわたる事象なので、このような研究はぜひどんどん進んでいってほしいです。いろんな技術等とも絡めて、みんなが怖さを感じることなくインターネットを使える日がきますように。

*1:今年5/10(http://www.glocom.ac.jp/events/1609)と、6/28(http://www.glocom.ac.jp/events/1730)開催のイベント

*2:たしか津田大介さんのお話。