優しかった気持ち

人がつくったものが好きです。AKB48劇場公演。

舞台「脳内ポイズンベリー」【20200321 17:30-@新国立劇場 中劇場】

3月14日から始まる予定だった舞台「脳内ポイズンベリー」はこの混乱する状況下で初日を迎えることができず、3/14~19そして20日に予定されていた公演が順繰りに払い戻し・中止の対応になっていました。専門家会議で議論される内容を受けて十分な対策を施したうえで、21日(土)の公演から幕が上がることが決まりました。
そして本当に本当に幸いなことに、21日はたまたまチケットを持っていたので17:30からの2回目の公演を観てきました。

入場

開場17:00/開演17:30で、会場に着いたのは17:10頃ですが、幅広の階段の真ん中にゆるい列ができていてそこに並びました。体温検査の待機列でした。進むとビデオカメラのようなものが三脚にセットされてて、係員の声掛けで線のところで立ち止まり、画面でチェックされて「OKです」と言われたら通される形。1人ずつのチェックなので並んで待つ時間は余裕を見といたほうがいいなと思いました。きちんと検温するためにコートを脱いでおくとスムーズ。私の時は5分程度待っただけだったけど、開演ぎりぎりだと心臓に悪いかも。
通された先にはアルコール消毒液の置いてあるテーブルがあり、そこを過ぎるとチケットもぎりのスタッフがいます。そこを進むともうロビーのベンチなりで皆さんまったり開演を待っているんですが、ところどころにもアルコール消毒液は設置されていました。ロビーに出ているスタッフさんの数も多かったように感じた、みんなマスクしてた。ピリピリした空気は全くなくて、ただ入場にひと手間かかっただけ、みんながやたらマスクしてるだけという感じでした。

感想と河西さん

以下はほんの覚え書きですが、ネタバレありますので閲覧ご注意くださいまし。

市原隼人蓮佛美沙子早霧せいな、グァンス、本髙克樹、斉藤優里、白石隼人、渡辺碧斗、河西智美

どんな舞台なんだろうなあと半信半疑で観に行ったけど、脳内会議、普通に笑えておもしろかったです。
主人公の桜井いちこの脳内が擬人化されていて<ネガティブ思考>池田、<ポジティブ思考>石橋、<瞬間の感情>ハトコ、記憶担当(書記)岸、そして議長(いちこの思考に多分一番近い)吉田の5人によって繰り広げられる脳内会議。「インサイドヘッド」も同じような世界観だけど、脳内のカテゴライズが違うとこうも違う表現になるんだなあ。
いちこや実際の登場人物よりも脳内の方がフィーチャーされていたのが新鮮だった。人物はみんな人間的でしょうもない人々で、少女漫画さならがらのまどろっこしさ(毎月連載しなきゃいけないから仕方ない)もありつつ、最後の展開はそうなるんだーという意外さもあり。漫画を読んだことがないからわからないけど、ちょっとこのあとどうなるのか気になりました。


「一緒に居て自分を好きでいられる人」っていう考え方、ある芸能人の結婚が話題になった時に似た言葉を聞いたことがあるけど、そうやって自分を尊重する思考の大切さとか、それを二人の現実に当てはめた時に避けられない別れの切なさとか、思うところがあった。おもしろい舞台だけど考えさせられるというか、恋愛の世界が生々しくて。少なくとも夢見る少女の世界ではない(なんといってもいちこは三十路手前の設定だし)。甘ったるくなくて、すっかり大人になってしまった私でもある程度楽しめたのはそのおかげかなと思いました。


そして、議長の市原隼人さんが良くてねえ…。体格も良いし存在感があって頼もしいし、彼といえばもちろんROOKIESの世代なんですがドラマで観た演技とは違ってリアクションの大きさ、目の前で仲間に抑え込まれながらの演技では頬に伝う汗まで見えて、パワーのある人だなと。そしてすごくシンプルな台詞でも、言葉に含まれる感情とか意味とかがずっしりと伝わってきて、いい演技をされるなあ。


河西さんは氏名掲載順的におそらく出演少なめの役だろうなと覚悟していたけど、あずみ、良い役だったー!ぶちぎれていちこのおしりを蹴るギャルだったけど、嬉しい・悲しい・怒ってるの感情を嘘なく伝える彼女は、多分この舞台の誰よりも人間味のある役でした。トラウマのせいで場を取り繕うように自分を引っ込めてしまう、あるいは感情に振り回されて人を傷つけてしまう、この舞台の登場人物はみんなそんな過去の傷を引きずっている節があるのだけど、早乙女との関係に病んでいるいちこを見つけたあずみは「息してる?」「私はお姉さんの幸せを願ってるんだよ」などと、先日おしりにキックをお見舞いした相手にかける内容ではないあたたかい言葉をかけたりして。人間味あるなあ。


明るく甘えた声とかしっかりギャルで、良くも悪くも考えすぎず軽くて、この登場人物の中では貴重な前向きキャラクター。きっとあずみの演技を通じて、河西さん自身も元気をもらったんじゃないかなと思ってしまうくらい。出演するシーンは一瞬だけど、すんごい良い味出してた。いいやつ。しかも、1回出てくるくらいだと思ってたのに2回目出てきたし!(高校デビューの松阪麗央奈(増田さん)は一瞬だったから!←)


カーテンコールでは最初に登場してお辞儀をする河西さん。笑顔なんだけどキャスケットで顔を隠すように俯いて…。最後に出てきた市原隼人さんのお辞儀の力強さ。目を細めた笑顔。大号泣の私。
座長からのご挨拶は「この状況の中、入場にもお手間をかける中、会場まで足を運んでくださり本当に本当にありがとうございます」と、「お客さんがあっての舞台だと痛感している」という趣旨のご挨拶。逞しい市原隼人さん。大号泣の優気さん。もちろん河西さんも号泣している。キャストの誰よりも泣いている。隣の越智さんがすまし顔だからなおさら目立つ泣き姿。カーテンコールの笑顔は、本当にぐっとくる…胸が熱くなる。


あずみをちょい役という言い方はしたくないけど、このくらいライトな役どころでこれだけ「舞台が大好き」という気持ちを再認識しているなら、仮にもしも今の時期に河西さんが自身の主演舞台を控えて稽古を積んでいるのが延期だの中止だのなんて事態になっていたとしたら彼女はどんな大きな思いを背負っていたんだろう?
今日のLINE LIVEやいろんな場で河西さんがよく言っているけど、舞台という場所が好きなんだなと、舞台で生きている人なんだなと思った。その繊細さはワーッと華やかなカーテンコールのステージで静々と泣いている姿からも伝わってきた。この舞台に立つ河西さんを観られてよかったし、2020年3月に河西さんが立った舞台が脳内ポイズンベリーでよかったなあと感じました。

舞台

少しでも早く、エンタメ業界に漂う自粛ムードが収まりますように。願うしかできない。もちろんみんなの健康が一番。でも、ウィルスにおびえて心の健康まで害しちゃったら意味がないでしょう。
国がどうのということは言いたくないけれど、文化活動を異常にネグレクトする現政府の傾向と新型コロナウィルスの一連の状況から、エンタメ業界、芸術業界の戦いは続くだろうと思います。本当に悲しいことに。もうすでにいくつものイベントがキャンセルされていて、破綻ギリギリだったり、白旗を降る組織だって出てくると思う。


今回の舞台は出演者や主催の豪華さから力の入れ様を感じていたけど、まずは力のある人たちが勇姿を見せて立ち上がっていく、エンターテイメントを自粛せず実施していくしかない。お金のないところに文化は育たないのだから「結局金かよ」なんて落胆している場合ではないし、そういう意味では脳内ポイズンベリー運営の判断は正しかった。
やりたくても、たとえば小さな劇団や強いバックグラウンドがない団体では絶対にできるということではないと思うから。対策にだってお金がかかるから。アルコール消毒液だって手に入れるの大変なんだから今。


だから、混乱の中で鼻から全公演中止にはせず、開演できそうな兆しが見えたらすぐに幕を開けられるように辛抱強く検討し、十分な対策をして実施に踏み切った運営各位に感謝。いつか幕が開くことを信じて舞台を作り上げた演者、すべての関係者に感謝。幕を上げてくれた脳内ポイズンベリーに関わる全ての方に、やっぱり感謝したい。2020年3月という歴史に残るご時世に楽しませてもらった舞台、忘れないと思います。ありがとうございました。


3月29日まで、新国立劇場(初台)で観られます!笑える舞台だったのでお時間ある方はぜひ。
www.nounai-poison-berry.jp


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