優しかった気持ち

人がつくったものが好きです。AKB48劇場公演。

ZERO BEAT.第4回本公演「スナップ・アウェイ」【20181215 18:00- @テアトルBONBON】

こんなに日を置かずにまた中野に来ることになるとは思わなかった。10月に「シャンパンタワーは立てられない」を観劇した時は北口に出てしまったけど、今回は間違えずにちゃんと南口に出られた。何度か行ったザ・ポケットは道の向かいにも小さな劇場が2つあり、テアトルBONBONが今回の会場。とても小さい。当日に券引換、そして自由席。いろいろと私にとっては新鮮だった。

以下感想です。辛口、ネタバレ含まれますのでご容赦。

 

秋月栄志、安孫子聖奈、井関友香、市瀬瑠夏、江崎香澄、岡田彩花、川畑早紀、北澤早紀AKB48)、鍋嶋圭一、松波優輝、緑川良介、山岸拓生、結城駿、【ZEROBEAT.】中條孝紀、永田彬、島本修彰、西村侑樹

脚本・演出:西永貴文

 

舞台

雑誌の出版社、B級オカルト雑誌『Q』の編集部。刊行から30年を迎えようとしている歴史あるオカルト誌は、捏造ネタ等による質劣化で売上が右肩下がりで、廃刊の危機。次号で同社の人気芸能誌『文夏』に売上で勝てなければ廃刊だと社長から通達がある。『文夏』も『文夏』で、芸能人のスキャンダルからスポーツ界のハラスメントまで打てるネタは打ってギリギリの状態。売上勝負の号のスクープネタをかけて、2つの雑誌編集部が駆け回る…というもの。

岡田彩花さん演じる一條睦美はQの新人記者で、文字に関わりたいとこの仕事を始めた元小説家志望。祖父はオカルト界の有名な霊媒師だったが、当時の『Q』のバッシング記事に煽られ「嘘つき」と彼を叩く声が大きくなり、体調を崩して亡くなってしまう。一條は祖父の事実を証明する声がなかったことに失望して、オカルトを憎み信じなくなる。

北澤早紀さんが演じるのは『文夏』の記者・熊佳代。メガネをかけて物静かだが、当時高校生だった妹が失踪してしまった事件を暴こうと密かに思っている。しかし、書かせてください、特集させてくださいと意気込む一方で、取材に進展は無し。熊の妹が行方不明になる前、ボーイフレンドとの最後の電話で姉について語った通り、佳代は「あれしたいこれしたいと言うのは立派だが行動を起こす力がいまいち弱い」。

 

物語の芯がシリアスなだけに、コミカルなシーンがとにかくコミカル、演者さんも素をさらけ出しておもしろく演じているようだった。Q編集部の卓郎さん、開いた魔術本に顔を隠して笑ってるのはわかっているぞ。あと「もののけ姫のサンと結婚したい」と言ってる木内がミッキーマウスのTシャツを着てたけど、あれもコメディーということで良しと思っておこう。個人的に私がシリアスとコミカルの温度差と身内感が苦手なので、まどろっこしくて早く進んでほしいなと思ってしまったが、『文夏』編集部で淡々と進む失踪事件とバニーガールグラビアの人気女優のスキャンダルの方の展開はのめり込んで観ていた。1場面の長さがちょうどよくて、目まぐるしさがなく飽きることもなく、1場面ごとに新しいことが1つわかり話が繋がっていくから、ストーリーはとんとんと頭に入ってくるし、観ていて楽しかった。

ステージが大きく上下に分かれていて、オフィスのパーテーションみたいな白や青みがかったグレーの壁になってた。ステージ上の部分は道やちょっとした空間としても使えるし、下手側上部の壁はスクリーンとしても使われていて、オフィスの場所を示す字幕やスクープ写真が投影されていた。小さな劇場ではあまり観ない使い方だと思った。

 

人気女優のインスタグラムの投稿やらから、交際をばれないようにマネージャーにどう口実するかを考えるカップルのやり取りは、まさに今のネット時代という感じ。だけど、「堂々としたい」と二人の交際を公表したがる彼氏(アーティスト)と、「ファンが悲しむから嘘を通さないと」と主張する彼女(女優)のどちらの言い分も真っ当なもの。バカップルのような嫌な感じのする二人ではなかったから、事務所の裏のつながりとか世間体のキープとか彼らを取り巻く環境の腹黒い一面はいろいろと絡んできたけれど、お互いがお互いの立場・力をうまく利用して、結果的に編集部との関係も穏便。二人が幸せそうでよかったです。芸能人も、普通の人ですからね。

 

Q編集部のデスクで黙々と魔術の研究をする卓郎さんが、ついにできたと死者を蘇らせる魔術に成功し死者を召喚して、熊の妹が現れ、彼女と仲良くなろうと卓郎はプーさんの恰好をしたり高校生のはやりを勉強し始めたりする。それを見てQ編集部のみんなは怪しく思っていて、オカルトの雑誌をやってるのにいざ目の前の卓郎がおかしな行動をとるようになってもなかなか信じない。受話器が浮いたり、棚の書類が飛んで、熊姉妹しかわからない質問のやりとりに、初めて事態を信じることとなる。そうして、実現するはずのなかったオカルトが、そしてバニーガールのグラビアが、二つの編集部を繋いでいく。

 

一條と熊

熊の妹の霊が編集部のオフィスに現れたことをみんなが認識しても依然として笑いの方向に持っていこうとする脚本は、卓郎により証拠が揃ったのにオカルトを信じようとしない一條とどこか相通じるものがあった。そしてそんな一條の冷静さは、私はよくは知らないけど岡田彩花さんの繊細な気質とも通じているように思った。ボケの多いQ編集部のツッコミ役はパワーを使ったと思う。声は細いが、1月に観た時よりはきちんと台詞が聞こえるようになっていた。まだ年齢的に若いからか「新人記者」ということ設定らしいが、見事に演じていた。祖父を失くしてオカルトを信じなくなり、拒みながらも最後には信じようと笑顔を見せる一條の役を、岡田彩花さんが引き受けていることを嬉しく思った。

そして熊。北澤さんは人気雑誌の編集部にいることもあり経験のある記者という役どころのようだが、めがねをかけただけでその風格が見て取れたのは何だったんだろう。妹を思うあまり陰鬱としてしまう長女らしい感じ、ひとつのことを追求する姿勢まで、どこかその姿から伝わってくるものがあった。

実行する勇気が持てない口先だけだった熊が、霊として現れたことで妹の死(の可能性)を受け入れて、卓郎と妹の霊に導かれて妹が埋められた場所へと向かうところ。実際に調査をして「遺体が出ました」と編集長に報告をした次の一言が「書いてもいいですか?」だったところ。その熊の態度にはもう口だけじゃなく行動を起こす勇気を得ているように見えた。好きなように書けと背中を押されてデスクに向かう姿は吹っ切れていて、かっこよかった。子どもの頃にはベランダに張って下着泥棒をとっつかまえたくらいの執着をもともと出せる人だし、スイッチを入れたらがっつり仕事できるんだろうなぁ…と想像させる。役の人柄が出で立ちや仕草にまで表れる、北澤早紀さんの役への入り方は半端ではない。

最後には、熊も一條も一皮むけたように明るい表情を見せるようになる。さっきまでもふざけては楽しそうに笑っていたけど、それとは違った清々しい笑顔。一條も熊もそれぞれ身内に関する重たい事実を背負ってるしそのことに変わりはないけど、幕が下りた後もあの笑顔が続いてほしいなと思いました。

 

超常現象っていつの時もあるないって議論が終わることないですけど、それが本当にあるかないかなんて多分どうでもよくて、その人の人生が豊かになるほうを信じて気持ちを楽にできるのならそれが一番だし、編集部の人たちもそう思って雑誌を作っているんだろうな…と思いました。最後になりますが、Qの編集長の語りがすごくよくて、文夏編集長と対照的にくたびれた感じがしていい味出しててとても好きでした。

彩花ちゃんと早紀ちゃんの出演情報が出て反射でチケットを買ったけれど、観に行ってよかったです。おもしろい舞台でした。ありがとうございました(´ω`)

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