遅くなりましたが、10月のマジムリ学園舞台の感想。ネタバレなどありなのでご注意ください。
瑞葵ちゃんがAKBとして舞台に立つ機会ということもあり、1公演くらいは…と申し込んだところ保険で投げた分も当選して、10月27日の昼・夜2公演を観てまいりました。日本青年館は昨年に改修されて再オープンしたそうで、現代的できれいな会場建築になっていました。昼公演は1階席の5列目(下手ブロックだったから実際には4列目)というなかなかいい場所。夜は2階席上手側最後列という超山岳席での観劇でした。
「マジムリ学園」
ドラマは今年2018年7月26日から全10話が放送され、今回はその舞台版。続きの話というよりはアナザーストーリー。
舞台の前半は、ユートピア嵐ヶ丘と嵐ヶ丘学園の話のおさらい。リリーが荒地工業高校のトップであるカバを倒したのはドラマの話ですが、「空いたトップの座をめぐって番長争いで荒地校内が荒れている」という逸話は、ドラマの中ではカバが倒された後ナレーションで語られただけだったと思います。舞台版はその部分の荒地工業の物語が鮮明に描かれていて、後半は荒地vs嵐ヶ丘の軸で進んでいきます。
嵐ヶ丘学園学園Cast:小栗有以(リリー)、岡部麟(ひな)、向井地美音(バラ)、倉野尾成美(すみれ)、山内瑞葵(アヤメ)、髙橋彩音(つばき)、馬嘉伶(りん)、谷口めぐ(ツヴァイ)、小田えりな(フンダート)、神志那結衣(タウゼント)、横山由依(エロ先生)
荒地工業高校cast:岡田奈々(ネロ)、武藤十夢(クインビー)、福岡聖菜(ゾンビ)、岩立沙穂(ドラゴン)、佐々木優佳里(ハイエナ)、太田奈緒(赤犬)
アンサンブル:小川鈴花、齋藤智美、月見心、船橋来菜、矢尻真温
脚本・演出:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
カバなき荒地工業のトップ争いの最有力候補が、ナイフを操るクインビー、一匹狼(犬だけど)で仮面をかぶった孤高の赤犬、何度倒しても這い上がってくるゾンビの3人。そこにネロが転校してきて、もともと幼馴染だったドラゴン、ハイエナの3人でつるみ、喧嘩ばっかりの荒地の中の番長争いに加わっていきます。
荒地工業、ネロドラゴンハイエナ
ネロは強者の取り巻きにうまいこと嘘をついて喧嘩をふっかけていきます。そして群れのヘッドであるクインビー、赤犬、ゾンビを一堂に会させるなど、裕福な家庭に育った彼女らしい聡明な策略をとっていきます。ネロは、希望を失った青年の犯行により両親の命を奪われ、ユートピア嵐ヶ丘への復讐を目論んでいる少女。その野望を遂行するため、人の心の裏の裏の裏までを見越した計画的で緻密、時には冷徹にも思える行動をする。平凡な知性のドラゴンとハイエナは、ネロの先の読めない巧妙な行動を「恐ろしい」という表現でナレーションしていました。回想で登場する沙織(ネロのお名前)を、幼馴染として知っているハイエナとドラゴンだからこその恐れ。
小栗有以とW主演として岡田奈々を敵校に配して、冷酷な圧倒的存在を演じさせ、かつ荒地工業四天王が抱える個人的な問題を喧嘩のシーンで見事に描きこんでいる。親友を失って負けを認めずに生きることを心に決めたゾンビ。家族に愛されたいがために非行をくり返すクインビー。自分と顔の傷を残して焼身自殺をして消えていった家族を恨んでいる赤犬。赤犬がリリーにぶつけた怒りは根が深くて、観ていて心が痛んだ。顔に負ったやけどの痕と同じように、赤犬の人生に深刻な影を落として、消えることがない。
中でもゾンビの狂気の演技が物凄かったです。私は聖ちゃんのことは公演でお見かけするくらいしか知らないけど、あんなに芝居のできる子だなんて。本当に聖ちゃんなのか疑って、実質5列目の距離だったのに双眼鏡で表情を追ってしまった。「ゾンビ」という役名を知った時は福岡聖菜とのギャップを感じたが、普段がニコニコしているからこそ光のない瞳への豹変ぷりが凄まじい。藤田奈那とペアで「ロミオとジュリエット」のヒロインを演じたこともあり、経験と実力でこの役のオファーがあったのではと思った。ゾッとするほどの良い演技だった。
アヤメとリリー
つばきとアヤメはドラマよりも一般的な生徒役のほうに近く描かれていたけれど、生徒一般と華組(主人公たち)をつなぐ位置で、ドラマよりも人間味あふれててよかった。
つばきが怪我を負い、すみれがクインビーに捕まえられた時(「あんたよく目撃するねぇ」は笑った)、アヤメは激怒する。中途半端に華組が旗を振るせいで、親友のつばきは怪我をしたと詰め寄り、ひなが謝るとアヤメは感情を爆発させて掴みかかります。
アヤメを演じる瑞葵ちゃんの演技、舞台子役だったころの力がそのまま表れているようでした。普段の公演MCで聞くような活舌が若干怪しいモゴッとした感じは微塵にも出ておらず、確かに瑞葵ちゃんの声なんだけど、発声だけで山内瑞葵だと気付ける自信は100%ではなかった。この舞台に出てきた最初のシーンからアヤメはずっと平民として怒っているから、彼女に割り当てられたセリフの効果もあるとは思うけど、一人だけ声の圧が違いました。
ひなに掴みかかって怒りをぶつけるアヤメに、リリーは「怒る相手を間違えていませんか?」「感情で喧嘩したらそれは暴力。憎しみを生むだけです」と諭します。…深い。リリー先輩の申すこと深い。あの子ら高校1年生だろ?この物語世界においてはひょっとすると矢沢より深いかもしれない。
赤犬との喧嘩の後、正義がわからなくなってしまったリリーは学園から姿を消してしまいます。荒地のひとりひとりの背景を知ってしまうとなおさら誰が悪とは言えないし、マジムリ学園はドラマも舞台もひとつの答え(結末)に到達させるのが難しい設定だな…と思った。
ゲスト
この日のゲスト出演は、昼公演が小嶋真子さん、夜公演がSTUの石田千穂さんでした。ゲストが登場するのは2回。華組に相談をしに来る教室のシーンと、実は潜入捜査していた警察官でしたのていで戦争終焉後に登場してみんなに帰るように促すシーン。昼のこじまこの相談は「アイドルで21歳なのにたぬきだと言われる。カワウソは仕事に繋がったからいいけどたぬきはどうしたらいいか」という内容で、リリー先輩の一言は「山へ帰ってください」ですごい笑った。会場も沸いたし、確かひなから「リリー目元緩んでるよ?」とキレのいいつっこみも入り、とてもおもしろい場面だった。
同役は舞台終盤にも警官として登場するのですが、夜公演の千穂ちゃんポリスは、戦争の解散を促しながら「みんな家、東京じゃろ?」とニコニコしていたのがバリバリに瀬戸内の方でとても可愛らしかった。
リリーとネロ
警察がきて解散していく中、リリーがネロにまたいつでも帰ってきてくださいと声をかけた時の、ネロの表情の揺れ方が凄まじく繊細だった。「あなたは真面目に生きすぎてる。曲がったことが大嫌い」いい言葉だ…リリーはほんと、悟ってるな。もう一度言うが高校1年生のはずである。そんなリリーのあたたかい言葉に、ネロは一瞬揺れて、でも「は?」とネロを貫く。去り際の「泣きたくなったら、また来るよ」の一言には、沙織に戻ったかのような弱さと労りがあった。
この舞台を通じて知ったのは、小栗有以さんの意識の高さ、気品。テレビや公演でちょっと天然なところを見ることはあるけれど、その振る舞いから連想する以上に一生懸命で熱心な方なのだなと。いろいろな場所でセンター・選抜を任されているだけある瞳をしている。ここでも、リリーを演じきるというのは演者としていえば当たり前のことですけど、感情を表に出さない役って簡単なものではないし、ゲスト出演の笑いを誘う和やかなコーナーですら「リリー」を崩さなかったところに彼女の真面目さを見ました。
岡田奈々さんはみんなと同じライトを浴びているのに一人だけ輝き方が違った。でも悲しみに暮れる沙織でいる時はその輝きは出ていなかったから、あれはネロという役柄のオーラだったのだろう。荒地にやってきて楽しそうにてっぺんを目指していたネロが、次第に狂気に満ちていく様、美しいほど酷だった。クインビーを口説く時に、彼女のアトリビュートであるナイフでネロ自ら自分の腕を切って、同盟を組みたい様を真剣に表明する真っ直ぐさは、観ていてぞっとするくらい。純粋すぎて怖い。そして確かこの場面が終わった時、ネロは暗転するステージ中央でニヤリと口を大きく裂いて笑みを浮かべる。ほんの些細な芸だけど、物語の展開にしっかりと暗雲を乗せていた。仕舞いには、仲間たちに「ネロ様万歳」を言わせてどんどん独裁に走っていく。孤独な人だ…。個人的なぼやきだけど、ネロ、ドラゴン、ハイエナが幼馴染っていうくだりはもっと掘り下げてほしかった。最後「沙織」呼びに戻るくらいまで。その後ネロがどうしたのか、幼馴染の仲も含めて、彼女のドラマの続きを観てみたいと思った。
…とはいえ、そんな物語のあやふやな展開も、物語がフワッとモヤっとした結末で終わるところも、なんだか二次創作みたいだと思った。この舞台版で描きたかったのは主人公の嵐ヶ丘じゃない、紛れもなく荒地工業と思わせるところも含めて、この舞台自体が二時創作的。きちんと作りこんでおきながら描かないところは描かないでおく、AKBの学園シリーズらしいといえばらしい。ゆいゆいとなぁちゃん、最近は二人のツーショットを見る機会も増えてきた気がするし、選抜メンバーということで活動を一緒にする中でいいダブル主演の機会だったのでしょうね。
ライブパート、撮可タイム、お見送り
撮可タイムは昼公演ファーストラビット、夜公演言い訳Maybeでした。最後に1曲マジすかロックンロールを歌って終了。出演メンバー全員でロビーでお見送り、の流れ。
マジすかロックンロールはさておき、撮可タイムのファーラビと言い訳はマジムリ本編とは関係がなく、撮可曲を設けたかったがための挿入だったのかな。
そしてお見送り。メンバーと向かいになって点が線になりそうなくらいの人数のスタッフが立ち、ヲタクをどんどんと流していく。背負っていたリュックをべたべたと触れて、掴まれ、流され、大変不快だった。おまけの企画に時間をかけられないのはわかる。だがしかし、メンバーと顔合わせをできる喜びよりもスタッフに流される不快感が増してしまい、はっきりいって観劇の感動がぶち壊しになったというのが私の正直な感想でした。舞台がすばらしかっただけに余計にそのことが残念だったから、観劇の余韻を守りたくて夜公演はお見送りを見送って帰りました。
撮可タイムについて私はよく知らないけれど、チーム8の由来を多分に含んでいると聞きます。ライブ中の動画や写真撮影がSNSに流れてくるようになったのはチーム8の系譜ではなかったでしょうか(少なくとも私の中ではその印象が強いのだけど)。
今回のマジムリ舞台出演メンバーも、AKB10人、HKT1人で、6人が8メンバー。主人公1人、華組メンバー4人のうち3人、親衛隊3人のうち1人、荒地工業四天王も1人が8メンバー。「ロミオとジュリエット」などこれまでの48Gの舞台、チーム8は8オンリーでの舞台も踏んでいるから、ドラマ・舞台ともにその経験が買われて今回の配役になったのではと思います。劇場公演を軸にした人事に目を移せばチームAのキャプテンを岡部麟ちゃんが継いだことが記憶に新しいわけで、総じてチーム8がAKB48の一部(多くの一部)を担い始めているということだろうと。
物販なり撮可なりお見送りなり、舞台を観に来たはずなのにいろいろと用意されていたオプションが私は好きではなかったけど、その1つひとつの企画が「AKB48」というアイドルらしさであることもまた事実。AKB48を応援している限りこれらから逃れることはできないから、この兆候を受け入れていくに越したことはないのだろうなと思いました。
思い返してみれば、今年4月頭のAKB単独コンサートにも撮可タイムが導入されていたし。大箱でのライブだけでなく舞台も、チーム8の担うウェイトが変化して、それとともにAKB48の毛色も少しずつ変わりつつあるんだなということを、この日強く感じたのでした。
「マジムリ学園」本編はとても素晴らしかったです。ドラマ版はドラマだけでは完結せず、舞台版も舞台だけでは完結しない気配を感じたし、主人公たちが1年生という設定なのも今後が期待できそうだし、2なり続編舞台なりでまた続いてほしいと思いました。