優しかった気持ち

人がつくったものが好きです。AKB48劇場公演。

ミュージカル座 ブロードウェイ・ミュージカル「アイランド かつてこの島で」【20190926 19:00- & 20190929 16:00- @IMAホール】

アイランド、2017年1月ぶりの再演です。河西さんが再演を望んでた1番の舞台*1。初日から圧倒的なパワーで魅了され、終演するといきなりのスタンディングオベーション。あっという間に千秋楽。アイランドとは、愛しかないトラジェディだということがわかった。ある意味では悲劇ですらないと思った。本当、素晴らしい舞台。

本ブログ、ネタバレもりもりですので閲覧ご注意

アイランド(2019) | ミュージカル座
河西智美【ティ・モーン】
上野聖太【ダニエル】
森田浩平【トントン・ジュリアン(ティ・モーンの養父)】
岡田 静【ママ・ユーラリー(ティ・モーンの養母)】
小林遼介【パパ・ゲー(死を司る悪魔)】
えまおゆう【アサカ(大地の母)】
三森千愛・尾川詩帆【エルズリー(愛の女神)】
清水 廉 ・杉浦奎介【アグウェ(水の神)】
藤澤知佳・木村つかさ【アンドレア】
矢山 鈴・森田瑞姫【リトル ティ・モーン】ほか

ティ・モーン

育ち育ち、育ち育ち……登場する河西さん演じるティモーンの美しいこと。客席、いや世界を見渡す、純真無垢な目なんですよ。これから何が起こるんだろう?って希望に満ちた、文字どおりに視線が透き通っていた。2年前は感極まって泣きそうなのを堪えたこともありましたが、もうすっかり成長なされて頼もしいのなんの…ぐっ…本当に、綺麗になった。今までも綺麗だったけど、どんどん綺麗になる。
車を見かけてから歌い出す最初の歌、だらしなく座ったり、段にもたれたりしながら歌うのだけど、その仕草もすべて、ダニエルと出会うと変わるんだよね。河西さんが演じるひとつひとつのことが繊細。そして歌、声量。誰よりも小さな身体のどこからそんな、世界を震わす声が出るのですか?最初から最後まで全部パワーアップしてて、驚きと喜びで圧倒されっぱなしでした。本当に底なしの天井知らず。とってもかっこいい。

ダニエルのことしか考えられないほどのティモーンの狂気を、この再演で強く感じました。でもその狂気には自然信仰による自信とたっぷりの愛情が通っているから、パパも街の人たちもみんなが彼女に魅力を感じて、突き動かされる。パパも、ダニエルも、門番も、ダンスパーティーで彼女のダンスを観て喝采した人たちも、神々さえも。

旅の途中のアサカの歌、やっぱ好きだな。本当に楽しくなるし、アサカに手を取られて踊るティモーンのおどけた感じ、目のキョトンとした感じがおかしくて。舞踏会でも、ティモーンは楽しそうな笑い声を漏らして踊る。脚を踏み鳴らして、指の先までピンと張り詰めさせて、周りの人たちを巻き込んだペザントの踊りは、グランズォムのそれと違って野性的かもしれないけど、それは文明に比べて遅れてるとか幼稚というわけではなくて、生命の通った元気の出るダンスだなと思いました。いや、だって本当に楽しかった。

そこからアンドレアを紹介されて、ティモーンの夢が散っていくのは何度見ても切なくて。
パパゲーに喉を絞められて漏れた声、別れて泣き崩れた時の弱弱しさは、深みが増してて胸が痛くなった。セーラームーンのスーパーライブで磨きかかったのかなと思った。恥じらいもなく、ただただ恋に焦がれる少女。愛し合ってると信じて疑わなかった少女の、嘘でしょ?と現実を受け入れられない目が、どんどん弱っていく。
「ダニエル・ボゾームの愛人です」と言いかけた口の戸惑い、誰も口にしなかった愛人と言う言葉をこの劇中で初めて口にしたのは彼女。自分の喉を振り絞って出た言葉の虚しさ、悲しさ。「彼には私が必要なの!」と信じて疑わない無垢さとかけあわさった狂気の演技は、喉を痛めそうなほどの迫真。何日も何日も待って、結婚式のコインを投げる習わしでダニエルに手を取られた時の安堵の表情、からの絶望。
空色の瞳に心を奪われてから翻弄されていく少女の物語を、こんなに情熱的に力強く、美しく表現できるなんて。

パパゲー

このブログ主はメンヘラなので、パパゲーに魅力を感じて仕方ないんですが、4柱いる中で誰も彼の存在を疎まないんですね。平等に扱われ、尊重されている。大地の母、水の神、愛の女神と、死を司る悪魔。ってことは「死神」ではないんだな。
死は悲しくて誰もが縁起の悪いもの、避けて通りたいものだけど、このアイランドのペザントの世界では、神々が望んだものならば死は必ずしも悪ではない。人が死んでしまったとしても、神々が望まなかっただけで、誰かが悪いわけではない。ある意味、死にすら寛容で楽天的。その価値観が根付いてるからこそ、ティモーンの運命を決めて見守る神々のシーンがあるのね。この気付きは、クライマックスに私を泣かせることになる。

恋愛

身体を重ねるシーンは、再演で絡みが濃厚になりましたね。愛の女神の歌とともに。いわゆるラブシーンだけども、セクシャルとかエロティックとか肉欲的ではない。愛のある愛というか、優しく通い合った穏やかな愛。唇を重ね、腕に触れ、頬を撫で、しっかりと抱き合う。二人の触れ合いがあたたかくて、ドキドキと見入ってしまった。美しい永遠の世界。
二人がとにかく楽しそうで、幸せそうでね。惚気るシーンすら、その後の展開を思うと愛しくて。

ダニエルのソロも素敵だったな。化粧をし香水をつける文明の女とは違って、太陽、月、風、星のような自然で飾らないティモーンに魅了を感じつつ、許嫁の存在と天秤にかけざるを得ないのが切ない。上手のセットにいるアンドレアのほうを見て彼女を思い出しては、旋律の合間に泣きそうな(に見えた)切ない表情を浮かべる。父親に声をかけられた時は「ティモーンを愛してる。遊びじゃない」と答えるけど、アンドレアを前にして変わってしまったのは、ダニエルの優しさであり弱さであり、時代だったのかもしれない。

ティモーンが旅に出て街で旅人に靴を貰う時、パパゲーが現れて「代償にそれを履け」みたいなことを言ったけど、ティモーン(ペザント)が文明(グランズォムの世界)に近づいた代償って意味だったのかな。
ちなみにティモーンが靴を履いてるのはこのシーンだけ。旅人から靴を履かせてもらって「いいよ!」と言って門を通るまで。それ以降はティモーンはずっと裸足。ダニエルは怪我が治った後も、ダンスパーティーまでは靴を履いてなくて、ティモーンと同じ裸足だった。それは彼の気持ちの現れでもあるようで。
ダニエルの白いエナメルの靴、無機質というか、綺麗すぎて色がないというか。文明の象徴みたいな靴だった。

楽器のこと

舞踏会のシーンで奏でる、フルート~クラリネットの音色が本当に綺麗だった。バンドの右端にかけてた方、しかも持ち替えがちょースムーズ。吹き方全然違う楽器なのに。パパゲーが登場した時のアルトサックスにも痺れました。コンガの焦らせる感じも最高。演技のほうに集中していて二の次で聴いてしまったのが惜しかったけれど、どのシーンでもぴったりの最高の音楽。アイランドの魅力の一つですね。

ティモーンの愛の力について

心通わせたダニエルの気持ちがいつティモーンから離れていったのか、ちょっと気にして観てみた。

パパゲーにそそのかされたティモーンがナイフを向けた時に、事実上は離れている。そりゃそうだ、わかってくれてると思ってた人がわかってくれてなくて、自分を殺そうとしたのだから。結婚式のシーン、コインを渡す時、一切セリフがない。表情もあまり動かず、何も伝えようとしなかった。
そんな彼の態度に触れたティモーンは、最後の力すら尽きて死んでしまう。悲しんだ神々が彼女をホテル・ボゾームの庭に咲く木にする。大きくなった木の木陰は、グランズォムとペザントを分け隔てなく守った。ダニエルの子どもたちはその木に登って遊び、その木陰で休んでいたダニエルの息子は、木の上から世界を見渡すペザントの少女に恋をして、二人は結婚が許された。

息子とペザントの少女の結婚を許したのって、父親のダニエル本人じゃないですか。

ダニエルも時代に、家系に、仕来りに翻弄されて生きていたんだ。でもそれを振り切って、自分の息子には種族を越えた愛を許した………わかるだろ?

ダニエルはティモーンを忘れることなく、ずっと愛していた。ダニエルがその当時にティモーンの死を悼むことができたかはわからない。けど少なくとも、愛し合った時間を忘れてなどいなかった。だって彼は自分の子ども達を庭の木で遊ばせた。その夢を語ったのは誰? ティモーンがダニエルに与えた愛は、彼の中にしっかりと根付いて生き続けていた。

「離れていても気持ちはいつも傍に」。ティモーンとパパ・ママがそうだったように、ティモーンとダニエルもそうだったんだ。ダニエルはティモーンの手をとって言った、結婚しなくても「ずっと一緒にいられる」と。気持ちは離れてなどいなかった。だから自分の息子の代で、結びを許すことができた。

ティモーンとダニエルの愛は、かつてこの島の戦争に敗れたフランス貴族アルモンドが末裔にかけた呪いにすら立ち向かっているのかもしれない。誰も予想なんてしなかった、神々すら彼女の夢を笑ったけど、ティモーンの愛は死に勝った後もダニエルの中で生き続けた。そして、種族を越えた混血の愛が報われる時代がきた。

ごめん、言わせて。他作だけどいわせて


ミ ラ ク ル ロ マ ン ス


もおおおおおおおおおおお!!!!今までずっと「ティモーン可哀想!」の感情で思考停止してた私をパパゲー様に殺めていただきたいくらいもおおおおおおおくそおおおおおおおおアイランドマジ神(語彙力が死んでしまう契約を交わしたようです
なんで気づかなかったんだろう!!!こんな大事なことに!!!!ぼうっと観てしまう自分が恥ずかしくてたまらんけど、優れた舞台は何度観ても気づきがあっておもしろいからやめられない。そんな雷に打たれている間にも、ティモーンもダニエル(の息子)も「さあ踊ろう!」と楽しそうに踊っていまして。くそ…前が見えねえ……俺は人と泣くポイントが違うんだ。報われた後の笑顔に、弱い。

カーテンコール座長挨拶

河西さん「身体を使う舞台なので怪我と隣り合わせだけど、やっぱり私はこの仕事が好きだなと思いながら立つことができました。アイランドというこの作品がいつまでも続きますように。皆さんの中にこの作品の小さな種が残って、花となり、木となり、これからも繋がっていきますように


終 演 後 も 泣 か せ て く る 推 し


河西座長の後ろで上野さん、木を見上げてから目押さえてたからな!!見たからな俺は!!!
まったく、パワーしかない座長。愛の塊。河西智美ってきっと愛なんですわ。そんなティモーンとリトルティモーンは、二人で「はっ!」って両手をこわばらせてポーズしたり、手を繋いで捌けていったり。本当にあっという間の時間だったけど、最初から最後まで愛しかったです。

金属音についての謝辞

2017年の時のブログに「自動車、ナイフ、コインはいずれも金属で、それはダニエルやティモーンを引き裂き死をもたらす象徴。そのくらい重要なものだからもっとこんな演出がよかったんじゃないか」という感想で、落ちた時の音のことを書いたのです。それについて当時演出助手をされていた椛島さんが引用ツイートでリプをくださったんです。
読んでくださる方がいるのだな、素人がずいぶん生意気な感想をしてしまったなと反省しました。

そして2年半が立ち2019年9月26日、再演初日。パパゲーに手渡されたナイフがティモーンの手から滑り落ちた瞬間、「カラン」…音が鳴った…!!!まさかと思ったコインも、ティモーンの手を滑り落ちた瞬間に、音が鳴った。
マジかよ。ティモーンの死を悼むことも忘れ、感謝と謝罪とで気持ちがいっぱいになりました。あの時は生意気言ってすみません、最高でした。

でも、それだけじゃ終わらなかったんだ。

今日2019年9月29日。コインが落ちた瞬間、「チャリン」……静かに血が沸きました。だって3日前の初日は、コインが落ちる音を被せていた。それとは聞こえが違うんです。
今日は音がぴったりと合っていた。被せなら大成功だけど…被せ?いや、死せるティモーンから近い4列目上手席にいた私には、生の金属の音がしっかりと聞こえた。スピーカーからの音ではなかったように思う。

上記のすべては素人の勝手な過信、妄信でいいのです。もはやそこで音が鳴ってなくても構わないとすら思う。私の耳は確かに、ティモーンが尽きる金属の音を聞いたのだから、それだけが事実で。

そしてそんなことよりも美しい、このミュージカル座のアイランドという舞台が生きて進化したという事実。2017年から、再演の初日から大千秋楽まででさえ、アイランドという舞台を作るすべての方々の挑戦が続いていたという事実。
河西智美様、中本吉成様、すべての演者の皆様。本当にありがとうございました。アイランドという息の根が聞こえる生ける舞台と出会わせてくださり、本当にありがとうございました。


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パンフレット表紙、美しい
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ポスター、美しい