感想というには取り留めがなく、短すぎて、話が脱線しまくっている何かです。この夏に観劇した舞台です。
朗読劇「星と光の旅」
【キャスト】星(せい):河西智美、光:平井亜門、ハナ:上大迫祐希、タクシー運転手:蘭乃はな、照:(しょう)竹内寿、ルミ:翠千賀
【演出】池畑暢平
【脚本】千葉暁史 逢澤みちる
河西さんはともちんの代打としてこの舞台の出演が決まりました。朗読劇なんてとても久しぶり。有華ちゃんの消しゴムの時以来かな。
新大久保といえばIWAくらいでしか行ったことがない場所でしたが、それとは反対方面にまっすぐ進んでいって一本裏道に入ると静かに佇む会場。看板出てなかったらKPOPヲタと若者たちの喧騒にかき消されるところでした(?)
ストーリーと人々
物語は思ったよりもヘビーだったけれども、そこまで重たく感じなかったのは生まれつき目が見えない主人公・照の健気な姿勢と、ややライトノベルっぽい(うまくつながりすぎてるという意味で)ぶっ飛んだ設定のためでしょうか。息子・照を目が見えない体に生んだ自分を責める母親。点々とする彼らを線で結んでいくアイドル少女と、タクシー運転手もまた、陰りのある登場人物たちを明るいほうへと手引きするようにポジティブな存在。そのラノベ的ぶっ飛び具合のおかげで、ヘビーなだけでない前向きなストーリーになっていたと思う。
河西さん演じる星は、事故で視力を失った電飾技師の彼氏・光を亡くした。彼がどんな体験をしていたのかを追いかけたくて目が見えないフリをして杖を持って歩いてみていた。その彼が愛読していたサンデグジュペリ『星の王子さま』がストーリーのキーとして登場します。星の王子さまの中でも名句として人気の「大事なものは目に見えない」はさまざまな作品で繰り返し引用されているけど、「目が見えない」身体の登場人物が歩んでいくストーリーの締めにはぴったりな言葉だった。ステージを完全に暗転させて光のない中で演じる演出というのも、なかなか客席で経験できるものではない。天井に星のようなオブジェが吊り下がっていたけどそれが揺れた時の反射もなくなる。
目が見えない、目に見えない
もはや舞台の感想じゃなくて個人的な回想でしかないのだけど、河西さんが以前立った舞台とちょっと縁があるかなと思ったので。当ブログ恒例の大脱線。
なんの光もない暗闇を私が初めて体験したのが沖縄のガマだったんです。修学旅行で行きました。それまで真っ暗というと、目を閉じた時の状態のことだと思っていました。それでも日の下に行けば肌の血潮で赤っぽく見えたりして、外光は入ってくるもの。だけどガマの中は全然違いました。ガチの真っ暗。すぐ横の友達も見えない。自分が目を開けているのか閉じているのかもわからなくて、何をどう頑張っても何も見えなくて、結果的にまつ毛の上下する感覚を瞼の肌に覚えるような。
この体験は衝撃でした。暗闇ってこういうことなんだなと理解した。
そして「目が見えない」身体で生きている人というのはあの暗闇と対峙しているんだなと、その時学びました。弱視の方はある程度の光を感じられると聞きますが、照はきっとこの暗闇と一緒に生きている人だろうなと思いましたし、そういう黒さが完全に暗転した劇場にはありました。
ただ、それでも母に連れられて海に行った照はそこで「青」がどんな色なのかを知ったと言います。色と光は不可分だけど、彼には色がわかる。でもきっと照が理解した「青」は、私たちが見ている「青い色」とはちょっと違っていて、照の青は照にしか味わうことのできない色なんだろうなと。それって素敵なことだと思うんですよ。
ちょうど先月朝日新聞に全盲の男性の美術鑑賞に関する記事が出ていましたが*1、一つのものでもそれを言葉で伝えようとすると三者三様の説明が飛んでくる。いろんな人のいろんな視点から一つのものを見るから、目が見えなくても「ものを見る」ことができる。
大切なものが目に見えないんじゃなくて、頑張って頑張って大事なことを探していくと、辿り着いたそれは"見ようとした人の目にしか見えない"色とカタチをしているんじゃないかと。
母との関係にモヤモヤを抱えていた照はそのことを本能的に理解していたから不幸ではなかったし、星との出会いをきっかけに母との柵を解消して変わっていくことができたんじゃないかなと思いました。
ヘビーな役でむず痒いほど女の子だった星も、照との出会いで今まで見えなかったものが見えるようになったんじゃないかな。照と接しながら「光がない」=絶望ではないんだと、光の分まで理解しているようで。切ないことに変わりはないですが、舞台の幕が降りた後でも2人が大事なことを見失うことはないだろうな、と思えるポジティブな終わり方でした。
あと、これまで頑なに「演劇のグッズ物販なんて…!」と思っていたブログ主が、終演後に河西さんのお写真セット買いました。以上です。
丸美屋食品ミュージカル「アニー」2021 東京公演千穐楽
8/15 16:00公演 チーム・バケツ
荒井美虹(アニー)、藤本 隆宏(ウォーバックス)、マルシア(ハニガン)、笠松はる(グレース)、栗山 航(ルースター )、河西智美(リリー )、 山﨑もも(モリー)成瀬綾菜(ケイト)、木内彩音(テシー)久野純怜(ペパー)、藪田美怜(ジュライ)、大谷紗蘭(ダフィ)、イエヤス(サンディ)アンサンブル:鹿志村 篤臣、谷本充弘、丸山田加賜、森雄基、矢部貴将、太田有美、木村つかさ、濵平奈津美、横岡沙季
脚本:トーマス ミーハン
作曲:チャールズ ストラウス
作詞:マーティン チャーニン
翻訳:平田綾子
演出:山田和也
音楽監督:小澤時史
振付・ステージング:広崎うらん
美術:二村周作
照明:高見和義
音響:山本浩一
衣裳:朝月真次郎
ヘアメイク:川端富生
歌唱指導:青木さおり
演出助手:小川美也子、本藤起久子
舞台監督:村上洋康 *2
荒井アニーとイエヤス氏
チームモップのチケットだとばかり思ってたんですが、都合よく取れたのはW主演の荒井さん率いるチームバケツのほうだということに会場ロビーで気づきました(´ω`)←
荒井さんのアニー、德山さんとまた全然違うアニーでびっくりしました。
喜怒哀楽がはっきりとしていて未成年の子どもらしいアニーだなと、荒井さんの演技から感じました。呼んでも来てくれないサンディにイライラして、地団駄を踏むみたいにアクションするとやっとサンディがトコトコやってくるんです。ずっとニコニコ腕を広げてサンディを呼んでいた德山さんとは全然違っていた。
演者によって同じ役でも変化があることは重々承知してるけど、経験を積んで大人になってから強く個性が出てくるのかと思ってました。ごめんなさい、子役侮れないですね。パートナーのイッヌの性格とか相性もあるのかもですが、感情表現という結構根本的な演技からこんなに個性が出てくるなんてほっこり。脱帽でした。
ウォーバックスの部屋着
今回は前の方の列(下手寄り)で今回は観ることができたんですね。前のほうに行けば行くほど双眼鏡使ってしまうマンなので、今回はウォーバックスの衣装を見てみたのです。
部屋着のローブと言うのでしょうか。黒字にゴールドの紋様だとばかり思ってたら、玉虫色に輝いてるんですわ。よく見ればベースは黒なんですが青緑紫黄色赤、翻るたびいろんな色に見えるんです。大富豪にふさわしい豪華絢爛さ。遠くからでは気づけなかった装飾でした。
固まるハニガンさん
終盤で、確か大統領が目の前にいることにびっくりしたシーンで。口をぽかんと開けた表情がおかしくて双眼鏡で見てしまった() 後ろの段差に腰掛けられてしばらくそのままという背景でのお芝居なんだけど、技術が本当にすごい。本当にピクリともしないし瞬きひとつしないの。しばらくずっとそうしてて、何かのタイミングでフリーズが切れて我に返ってきてやっと目をぱちぱち…すごいよ。演技とは言ってもあそこまで文字通りのフリーズをコントロールして演じられるなんて尋常じゃなかった。
悪役なんだけど親しみを持てるマルシアさんの演技に河西さんも憧れてると話していたことがありますが…技術も人格も確固たるものを持っておられる…こりゃ凄いよ。また共演の機会があるといいですね。
肘まである黒い手袋
前のアニーのブログで肘まである黒い手袋*3が当時の最先端…というような書き方をしたのですが、ちょっと補足。
オペラグローブ*4の項目によれば、17世紀頃から肘以上まである手袋が流行っていたそうです。ただし色に関しては「すぐ汚れてしまう手袋は頻繁に変える必要がある→裕福の象徴」「黒い手は労働者の象徴」とみなされていたようなので、リリーの生きた1930年代には黒もポジティブに受け入れられてたと捉えて差し支えないでしょう。
その「当時の最先端」と書いた根拠は、トゥールーズ・ロートレックが描いたポスター版画(1892-1893年)に、この肘まである長い黒いグローブを付けた女性が描かれていたからなんです*5。このロートレックの作品の画面左上に、体しか描かれてない女性がステージに立っているのですが、宣伝すべきポスターなのになぜ顔が描かれてないのかというと「肘まである手袋をしているだけで(当時ポスターを見た人たちは)誰が描かれてるかを理解できたから」ということらしいです。それだけ個性的なアイテムであり、ファッションとして受け入れられた目新しいものだったんでしょう。
そしてリリーが付けた黒い手袋をした腕、すごく目を引くんです。ブロンドの髪からドレスまで色鮮やかなものばかりということもあって艶のある黒一色は目を引くし、腕から指先までシルエットがはっきりするからか、より細くスラッとして見える。白だったらこういう見え方はしなかっただろうな。
もしかしてココ・シャネルがファッションの既成概念ぶっ壊してたのも同時代…? リリーもおしゃれで黒い手袋を身につけてたのだと思いますが、コンパクトでメイク直して流行りのフィンガーパーマに毛皮のショールで派手に着飾るような個性の彼女に、黒の手袋はある意味ピッタリなトレンドだったのかもしれませんね。
今回もごめんなさいね、言わせてくださいね。
ご唱和ください
世紀末サイコー!\(^o^)/
途中中止になってしまった公演があったものの、8月末の名古屋公演の大千穐楽まで走り切れて本当によかったです。本当に苦しいことがいくつもあったと思いますが諦めないで最後までやり切ってくださったことに感謝。
厳しい時世はまだまだ続きそうだけど、華やかでハッピーなミュージカル、ゆったりと思いをめぐらせられるような演劇は絶対に人々を豊かにすると信じて。次回の舞台も楽しみにしてます。ありがとうございました^^
*1: 全盲の男性が美術鑑賞を変える あの日のデートが広げてくれた世界 - 朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASP983SQ8P96ULEI003.html
*2:4月の公演でこの情報チケットサイトかどこかから引っ張ってきたのですが出典わからず…。8月公演で変わってるところあったら情報掲載先求む
*3:手袋 - Wikipedia(Wikiって百科事典だからそりゃああるのは当然と言っちゃ当然なんだけど、「手袋」の歴史がまとめられてるってすごいことですよね…)