優しかった気持ち

人がつくったものが好きです。AKB48劇場公演。

舞台「六番目の小夜子」【20220109 13:00-&20220115 18:00-@新国立劇場 小劇場】

1月9日と15日の2公演を観劇してきました。原作と呼ばれる小説がありはするのですが、もしも本当に原作どおりの脚本だったとしたら容子ちゃんはTop of モブキャラ(途中100ページは出てこない)なんですよね。だからほぼオリジナルの舞台を観る気持ちで改めて2回目行ってきたら、違う観え方で楽しめました。

ネタバレ等々気にせず感想を書いていますので、気にする方は閲覧注意でお願いいたします。

 

出演 :鈴木絢音乃木坂46)/尾碕真花高橋健介/熊谷魁人/山内瑞葵(AKB48)/飛葉大樹/仲美海(劇団4ドル50セント)/大原由暉/志田こはく/花崎那奈(ボクラ団義)/緑谷紅遥(ボクラ団義)/山本涼介森下能幸

総監督:鶴田法男
脚本 :小林雄次
演出 :井上テテ
音楽 :小畑貴裕
舞台監督 :白石定
舞台美術 :福田暢秀
照明 :阿部将之(LICHT-ER)
音響 :筧良太
衣装 :前野里佳
ヘアメイク:青山亜耶
演出助手:高島紀彦
宣伝美術:西村恭平(Balloon)
制作 :倉重千登世、有賀美幸、竹田梨乃
企画協力:新潮社
主催 :舞台「六番目の小夜子」製作委員会

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青春ミステリー

まずは恩田陸さんによる原作小説の感想。自分は舞台化が決まってから恩田さんの小説『六番目の小夜子』を拝読しました。ドラマは見たことがありません。
読後の感想は、「どこがホラーなんだ? さらには沢木容子ちゃんが彼氏のいるイケイケ陽キャの女の子だけど、途中100ページは出てこないモブキャラだし舞台どうなるんだ?」というものでした。

さらには小説自体はホラーではない。小夜子伝説に翻弄されて不思議なことが起こるたび伝説のせいにするような、でもそれらにもきちんと因果があって噂はただの噂でしかなく、「青春のせい」で片付けて最後は笑えてしまうような青春ミステリーだったんですよ。恩田さんの筆力も相まって自らの高校時代、校舎の風景や匂いを思い出すような、素晴らしい小説でした。

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原作殺し

舞台の感想にあたり、先に監督・制作陣にたいする辛い感想を書かせていただきますね。
これを書き出さないことには、推しの演技の賛辞へ移れないので。

 

今回の上演のコンセプトは「ホラーとして六番目の小夜子を舞台化する」というものだったらしく。率直な感想を一言で申し上げれば、この舞台の脚本自体は原作殺しの二次創作でした。あくまでも小説のファンになった身としての感想、ということですが。

まず文化祭で「小夜子」を上演するのに体育館のシーンがないなんて。

これは原作の感想ですが「小夜子」の舞台自体が非常にワクワクするんですよ。小さな音にも敏感になって、その場の恐怖で生徒たちがだんだんおかしくなっていって、怪奇現象が起きるっていうあのスリルがよかった。「小夜子」の演技方法や、その台本自体も面白いものなんです。演劇界では邪道なのかもしれませんが、高校生の文化祭の演劇ということではそういう特殊なものもありじゃないですか。

今回の舞台作品ではそれが見れるのかなと期待していたんですけど、そもそも演劇部が演じるという設定にガラリと変えられてしまっていた。要の劇中劇が軽視されてるというか、ホラーに特化させたい監督にとってはどうでもいい要素だったんだなと受け取れてしまったことが残念でした。

会場が小劇場だったのも、シーン再現の枷になってしまったのかなと思いました。メインステージの理科室(演劇部の部室らしい?)は場面転換が不可能。細かな作り込みで、小道具も所狭しと並んでいる。そのメインセットの上(2階)にはいわゆるホワイトキューブ的な空間。石碑やベンチなどセットを置き換えることによって場面を変えられる仕様。理科室の机はどうしてキャストが客席に背を向けて座らないといけない配置なんだろう?と不思議でしたが、文化祭の日の「小夜子」を演じるシーンではっきりと理由がわかりました。コンテンポラリーなパフォーマンスを魅せるためのステージとして使うからです。

もしもの話ですが、例えば中劇場の方でできるんだったら、あそこにはステージに回転盤があるはずだから場面転換ができて、そうしたら体育館のシーンを用意することもできた。とはいえ小劇場でも、せめて真っ白な2階空間にパイプ椅子を並べてキャストの生徒たちに順番に朗読させていくとかそういうのでもよかったじゃないですか。

なんで?なんで監督。

恩田さんの脚本・演出が素晴らしかっただけになあ…。この舞台に際して原作を読んだ程度の人間ですが、これは原作の良さを殺してしまってますわ。ホラーという要素自体がこの作品に合ってないと言っておかないと浮かばれないといいますか。

 

劇前半のThe 青春な学園ドラマな雰囲気は恩田さん原作をしっかりひいていてとてもよかったんだけど、後半、霊としての小夜子が登場してきたあたりから、いろんなことが変な方向に捻じ曲がってしまって、原作の良さが殺されてしまったというか、原作があるんだよというのも申し訳ないくらいの展開になってしまった。結果的に容子ちゃんが狂気に満ちて半イーリス化して、それはそれでホラー的にはいいのかもしれないけど出オチ?みたいな感じで勿体なかったです。

 

というのが原作ファンになってしまった私の、脚本・演出等に対する感想でした。

 

頑張る演者たち

そんな展開を承知して受け止めたうえでの2回目は、落ち着いて楽しめました。全く別物としてみればということですが。

「ホラー化」するのにマッチしてないというのは承知しているけど、それでも演者たちは頑張っていました。

主演の鈴木絢音さんは沙世子と"二番目の小夜子"の人格をあっちこっちする大変な役だったけど、彼女なりに演り分けているのは十分伝わりました。オリジナルにはない設定だからその切り替えにはだいぶ苦労されたのではと思いますが、後半に容子と二人で話しているシーンで軽くこめかみを抑えることで人格をスイッチしていて頑張っておられました。文化祭で「小夜子」を演じるシーンはダンスじゃないけど、不思議な身振り手振りがその華奢でミステリアスな表情と相まって雰囲気がありました。

 

ようちゃんこと沢木容子

瑞葵ちゃん演じる容子は、このシリアスな舞台におてんば女子の要素を添えています。生徒が集まって小夜子伝説を説明している時に、レンタルで借りてきたホラービデオを取り出して隣に座ってる雅子にニヤニヤしながら話しかけていたり、とにかく明るくてやんちゃで元気な女の子。

舞台のセットの理科室の大きな机。天板が黒くて不燃のやつですね。あれはクライマックスの文化祭で「小夜子」の台本を演じるシーンでミニステージとして使う都合上、どうしても横向きに常時配置する必要があるようでした。だからその机に座る時、どうしても客席に対して後ろ向きになってしまうことがあったのですが、演劇部の練習のためにジャージに着替えた容子ちゃんが先生を追っ払って(瑞葵ちゃんがこのキャラクターやってて特に新鮮だったポイント)、客席に背を向けて座ったんですよ。

その後ろ姿の耳のかわいさったら、まあどうしましょう(語彙力)

瑞葵ちゃんのことは研究生公演の頃から気になってずっとウオッチしてきましたけど、思えばこんなにまじまじと推しの後ろ姿を眺める機会などなかったし、ましてやポニーテールで首元後頭部がスッキリしている状態でその大きくかわいいお耳を背後から拝むことなど後にも先にも巡ってくることのない機会でしょう……と双眼鏡を握りしめていました(表現がキモい)。細くてスタイルが良くて本当に綺麗な子です。

 

容子は演劇部部長の雅子と仲良しでこれは小説から変わらない設定なんですが、舞台では「まあ」「ようちゃん」ってお互いを呼んでいるのがすさまじく可愛くてハアアアン(限界)ってなったし、容子ちゃんの「まあ」の呼び方がシーンによって喜怒哀楽変わってくるのだけどいかなる時も親しみはしっかりあって、それが愛しかったので、私も生まれ変わったら「まあ」って呼んでもらえる名前で生まれてきたいです(?)

 

個人的に好きだったシーンは、沙世子がもつ鍵を狙って彼女の荷物が物色された事件の時に、部室にカバンを置きっぱなしにしていた容子ちゃんが大慌てで飛んできて自分の荷物をガサガサ確認するシーン。

そこに現れた男子生徒に呆れられて「津村さんみたいに自分のファンに物盗られたと思って?」「そうー!」と焦りつつノリツッコミしちゃう陽キャなところを覗かせるのが面白かったし、その男子に対してムカついたような表情するところとかも。あとは着替えの時に「覗かないでよー!」ってあっかんべーするようなところも。

あんなに感情を表に出して笑ったり慌てたりエゴイズム剥き出しだったりする瑞葵ちゃんって見たことがないから、容子のキャラクターで演っている一挙一動が大変新鮮でした。

 

先に書いたように後半の展開が完全オリジナルだったわけですが、文化祭の演劇部の芝居で「雅子が沙世子を主役にしようとしてる」というコソコソ話が小夜子(沙世子ではないと思う)によって噂になってしまい、「まあは私にいい役をくれると思う」と信じてた容子の(かわいい)耳にも届いてしまいます。この噂が流布してしまったのを雅子本人に訊きにいく容子が、「まあ?」って話しかける時のあの元気のない声がまあああ可愛くてドキッとさせられるんですね(まあまあ言い過ぎである)。

こんな感じで友達とコソコソ話してる人いたなあと、中高の頃の学校の風景を思い出してムズムズしました。感情を誘ってくるのがうまいなあなどと思いました。

 

容子ちゃんは結局この文化祭のお芝居で演出の役割を担当することになるんだけどうまく台本が書けず、いわゆる"小夜子の呪い"な感じで段々と苛立って様子がおかしくなっていきます。そして小夜子が悪戯に容子に渡した赤い台本(「小夜子」の物議を醸したオリジナル台本)に不穏な着想を得て、体育館を燃やしちゃえばええんや!ととんでもない演出をやることに血眼になってしまうんですね。あの狂った感じの笑い方は、それこそマジムリ学園LOUDNESSのイーリス様で培われた、邪悪で荒んだ感じになってしまっていて見ていて怖かったですね。

 

(これは監督に対する文句ですが、本当にこの展開で「六番目の小夜子をホラーにできる」と思っていたんだったらちょっと頭冷やしてこいや…。こういう青春ものの舞台って特に、監督や脚本演出によって本当にムチャな演技を要求されたりしがちだなというのをいくつかの舞台を見てきて思うことがあり、今回も正直に述べればそうでした。ムチャぶりレベルとしては低い方だったと思うけど)

しかしそれにしてもこの急展開すぎる要求をしっかり呑んで、火災を起こすことに血眼になっておかしくなっていきつつ、最後にはすんごいシュンと肩を落として「ごめんなさい」って雅子に謝りにくる容子ちゃんは、この舞台の中で喜怒哀楽を360度まわってくるとても表情豊かな役でありました。それをこなせちゃうことが彼女の凄さだなと感じています。

 

 

いわかけるへ

小夜子の舞台の中後に、成人式イベントやフレッシュメンバーコンサートなど複数のコンサートに出つつ、2月頭に予定されていたAKB単独コンサート等々のレッスンに、主演が決まった舞台「いわかける」のお稽古…。

そりゃどの瑞葵ちゃんも観たくて楽しみにしているけど、それじゃ体調崩した時に治るものも治らなくなっちゃうよ(´;ω;`)1月頭の段階で「舞台の稽古が同時進行してる」って話を聞いていたので、そんな無茶してたら倒れちゃうよ…と。

瑞葵ちゃんの体調が戻って今日のオンラインお話会から復帰で、そのタイミングで運よく券があったので話したけど、いわかけるのお稽古は「これから追い付かなきゃ」って意気込んでいたので、本当に来週幕が開くんだね…。無理はしてほしくないけど、ステージに立つ人間の多忙さとか"無理を無理と思わずに立ち向かう覚悟"みたいなものが垣間見えたので、心配しすぎるのも違うのかなと思ったりなど…。

ほんとにほんとに仕事に対して健気な人です。「六番目の小夜子」お疲れ様でした。「いわかける」も楽しみにしてるから、怪我しないでね(´ω`)素敵な舞台になりますように…

 

 

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