優しかった気持ち

人がつくったものが好きです。AKB48劇場公演。

リトル・マーメイド(2023)の感想

ありえん素晴らしかったので思いがけず新規ページを開いている。と言いつつも、何が素晴らしかったって全部すばらしかったから何から書き出したらいいのかわからんから取り留めもなく感想を書いていく。

 

当ブログの性格上、ストーリーや演出など含めて感想を書いていきますので、
以下ネタばれ注意でよろしくお願いします。

 

 

 

 

リトル・マーメイド(2023)

きっかけとして

SNSで活発になっていた議論(というのは名ばかりの中傷)。そんな中で視聴したレロさん×山本さんのウェビナー*1。そして、同じくディズニー好きの家族の絶賛。

これは映画館で目撃したほうがよさそうな作品だと、イクスピアリへ。

 

なお、レロさん×山本さんのお話を受けた今、「実写版」と形容するのは齟齬があると感じているのでこの呼び方は避けたい。
そのため当記事では便宜上、公開年に由来させる形で、ディズニー制作のアニメ映画「リトル・マーメイド」を「1989」、それに対応して今回公開された実写キャストによる「リトル・マーメイド」を「2023」と呼ばせていただく。(リメイクとか色々言い回しはあるのだけど、私自身があまりまだ使い分けできてない単語なので回避)

 

映画冒頭の伏線

アンデルセンの人魚姫の文言がスクリーンに写し出されるのが憎い。実写を痛感する。

「人魚は涙を流さない。それが余計に辛かった」

はっとさせられる一文。

もし人魚の涙腺(というか上半身)の仕組みが人間と同じだとしたら、涙を流さないわけではないだろう。「人魚は涙を流しても気づかれない」ということ。この映画を見る人間のひとりとしてはこう解釈するのがしっくりきた。これはとんでもなく辛くて切ないことだ。

この伏線はエンディングでしっかり回収されている。素晴らしい。アリエルは人間になったのだ。

 

変わった点 セバスチャンとフランダー

2Dアニメから、実写&3D作品としてリメイクされました。それに伴ってセバスチャンはカニになり、フランダーもまるまるぷっくりしたボディが魚らしいぺたんこな小魚さんに。スカットルは鳥の種類が変更になりました。

 

見た目の違和感はすぐに見慣れた。あとはどうして種類が変わったのか?これはツイッターとネット記事のおかげでスッキリ。動物倫理の観点からの再検討も考えられると*2。おもしろいですね。

個人的にセバスチャンに音楽家という肩書きがなかったのが気になりましたが、以下の「文字」の項目ともちょっと関わりがあるのかなと思いました。

 

変わって気になった点 アンダー・ザー・シー

バリトンのシンガーなぜいなくなった(すごい好きだったのに

人員の問題でしょうか…1989のアンダーザシーで大好きだったポイントが、要所要所で入ってくるベースボイスだったのです。

2023ではバリトンボイスがなくなっていて、代わりに入ってくるのは低くてもトロンボーンくらいの音域でした。アリエルが歌で入ってくるようになったからそことの兼ね合いなのかしら。音楽のことはわからないけど。

これは余談ですが、アンダー・ザ・シーってセバスチャンが色んな楽器を登場させながら海の底が楽しいことをアリエルに諭す名シーンですけど、すごい不思議なのは、音もそれを奏でる音楽も「陸」の文化なんですね。矛盾してるとかそういうことではなくて、「陸」と「海」っていつの時代もうまく関わり合いながら良いところを受け入れて発展させてきたのかななんて思ったりしました。

 

実写で気になった点 引力と海水

水中の引力おかしくね???っていうのが、1989版より遥かに気になってしまった。2023のたとえばアースラが薬品を調合している魔法の鍋。水中であんなにすんなり鍋にものが入っていくわけがない。それにしたってあまりにも無重力(というか宇宙みたい)になったら、鑑賞者の感覚に訴えかけられないし。

アニメ版をこのブログを書くにあたって見返したら、アリエルが「愛してる、愛してない」の花占いをして花びらが落ちていくとかすごい気になってしまったけど()そのシーンは2023にはなかったし、引力が気になってしまうシーンは極力減らしてここが妥協点なのかなという感じ。うまく作られていますね。

 

変わって気になった点 文字

アースラの話が出てきた流れで…。アースラとの契約が「契約書」の形をとっていませんでした。アリエルやトリトンがそこに署名をするという描写もありません。(フロジェイは声帯のないただのウツボになってるし、アズールくんも契約書のアイコン無かったら破綻しない?オクタヴィネル大丈夫そ?(ヲタク特有の早口(このブログでは話題にする機会なかったですが、2022ハロウィンイベからツイステッドワンダーランドのNRC監督生してます(´ω`)))

つまり海の中に文字がないのかしら? どうしてそうなったのか。

おそらく、アリエルが名前を伝えるシーンにヒントがあるのかなと。2023では、エリックが航海士は星で方角を見るんだと夜空を指差しながらアリエルに語るシーンがあり、そこでアリエルに近い発音の星座が出てきたことからアリエルの名前をエリックが知るという下りがあります。

もしもですが、声を出せないアリエルが文字を書けたとしたら、まず文字で自分の名前を伝えようとするでしょう。その文字をエリックが解読できるか(陸と海で使用してる言語が異なる可能性がある)、そしてその文字をきっかけに「こんな言語は見たことがない。アリエルはどこからきたんだ?」の詮索が始まってしまったら、ストーリーが筋書きから外れていってしまう可能性がある。

だから今回海の底の世界では文字に関する表現を落としたのかなと考えました。あくまでも個人の感想なのでご容赦。

 

(セバスチャンの音楽家の肩書きが外れて気になったのは、スコア(楽譜)を持たなくなった点。文字ではないけど、記号を記した書物が存在しないという点)

 

変わって気になった点 「火」を表す絵

ラ・トゥールの《マグダラのマリア》じゃねえ

油絵ではなく、本(おそらく写本)の挿絵になっていました。あれも何か実在する作品なのだろうか…。ただこれも、「本や文字は人間(陸)のもの」という考え方をすれば、2023に適した表現になってるのかもしれないですね。

 

水の表現

ディズニーが極めている水の表現。

私の印象に残っているのは、クラシック作品でいうと「ファンタジア」の魔法使いの弟子で汲まれ続けて部屋を水浸しにしてしまう水、「ピノキオ」での水中の水の揺らぎや、モンストロに追いかけられる時の波や飛沫の表現。いかにも手描きという、当時の最善の仕事を感じさせるものです。

それがCG作品になってからも極められていき、「カーズ」で水溜りの水を飛ばしながら走るツーリングのシーンに、ディズニーが極めようとしている部門の片鱗を見た気がします。そこから「アナと雪の女王」「モアナと伝説の海」「ラーヤと龍の王国」と、水・氷・海がメインの舞台、大切なエレメントとして描かれる作品が多くなってきました。特にラーヤの雨、川の表現には自然・人工様々な「水」が描かれていて素晴らしいものとなっていました。モアナの波の表現も大変研ぎ澄まされたものになっている。

それが、今回の実写&CGで撮影されたリトルマーメイドにも生かされていると感じました。私の個人的な見解ですが、ディズニーにとって「水」はある意味で当時にできる最善の方法で描かれた表現だと思います。

この記事を書いている7月は、連日30度を超える猛暑が続いていますが、そんな中で水の音や、青を基調とした風景はとても癒されるものがあります。そこに素敵なストーリーが付いてきたら最高の保養です。

 

トリトンとアリエルの姉妹たち

トリトン王がただただイケおじ

あんな王様いたら一生ついていくわ…。七つの海を跨ぐ姉妹たちという設定みたいで、姉妹といいながら演者の人種がさまざまだったのは興味深かったし、この映画のマインドがそのまま形になっている設定だと思いました。

トリトンのかっこよさは1989から変わらず、象徴的なセリフやシーンもそのままだったのは嬉しかった。変えちゃいけない部分はちゃんと抑えて制作されているのもまた愛を感じた。

 

エリックとコレクションルーム

いい!!いいよおお!

船が火事になってマックスを助け出そうとするシーン、1989では「マックス飛び降りるんだ!」と叫んでマックスを自分の元に呼ぶのですが、2023のエリックはそれをせず(できず?)自らがマックスのいるところまで助けに向かいます。その後海に放り投げられたマックスが救命ボートまで懸命に泳ぐのを、アリエルが下から手で促して助けてあげるのも印象的でした。

私このシーンでなぜか泣いてしまいまして(笑)なんでかは自分でもわからんけど、このエリック絶対に優しくていいやつだと悟った。

そして案の定、義理の息子として就いた王子という地位に悩みながら、航海への憧れや童心を忘れない青年として描かれていました。1989の彼よりも人間味があって、おとぎ話に描かれるような「王子様」ではない。イラストじゃなくて生身の人間が演じてることも影響してるかもなんですが、とにかくエリックの人物設定がよかった。これだけしっかり人格が形成されていたら、ソロ曲を1曲与えられるだろうよ。納得のソロ。

 

そして、エマ・ワトソンが出演した「美女と野獣」(2017)の図書室のシーンでも思ったんですが、

骨董品が陳列されたコレクションルームはずるいのよ

ワクワクしちゃうじゃない…。エリックの人柄、この部屋に出ちゃってるじゃない。アリエルと絶対に仲良くなれる環境。「僕と同じじゃないか!!」ってなるじゃない(作品が違うしややこしくなるからやめろ)。そしてこの映画を作った人たちの愛情もあふれ出ちゃってる……。なんなの。最高。

翡翠でできた人魚の置物も、ちょっとしたキーアイテムとしてたびたび出てきました。はあ好き。ありがとう。

 

アリエルの賢さ

コレクションルームでのシーンは二人の叡智の象徴のような場所でしたが、それだけじゃなく、アリエルの賢さがわかる展開が2023にはいくつもありました。

沈没船でサメに追いかけられるシーンも、船の中にあった鏡でできる虚像を利用してサメを罠に嵌めて難を逃れていました。「キス・ザ・ガール」のシーンで夜空を眺めながら星座の話をするのも1989には無かったもの。アースラを倒すラストでは、沈没船の舵を取るのはエリックではなくアリエル。最初の出会いのシーンで影からエリックが舵を操作して岩礁を避けようとしているのを見ていたから、それを覚えていたんでしょう。

王子様を待つだけじゃない、自ら解決の道を切り開いていくプリンセス。どれもとても素敵なシーンでした。ありがとう。

 

1989のアニメ版映画を好きじゃない理由

実は1989のリトルマーメイドを私はあまり好きではないんです…劇団四季もリトル・マーメイドは観に行ったんですけどしっくりこなかった。というのが私の正直な気持ち。

その理由は大きく2つあり、①作画がアメリカのTVアニメみたいで美しさを感じない、②ストーリー展開に重要ではないコント的なコメディのシーンが、ひたすら長く感じられた(例:シェフvsセバスチャンみたいな)ということ。大人になってから見返すと時間的にはそう長くもないなと思うんだけど、でもやっぱりこの茶番要る?と思ってしまう自分はいる。

 

しかしながら2023のアリエルでは、この2つの点が解消されていた。テンポがよい。アースラが人間の女性バネッサに姿を変えて、エリックに魔術をかけて結婚までもっていくまでが割にスムーズ。かつエリックも「自分が謎だ」と言うくらいで自分を見失うほど操られている感じがしなかったのは、彼のキャラクターがしっかり構築されているからこそだったかもしれない。

 

ハリー・ベイリー

そしてなによりアリエル。かわいいの。

人魚の彼女もかわいいんだけど、人間になって生活しているのが楽しいことがたくさんで、城の使用人にも市場でもみんなから優しく振る舞われて、踊ったりして。そんなシーンがたくさんだったことも楽しくて大好きだったポイント。

声ができずに話せない中、セバスチャンやスカットルに相槌を打ったり頷いたりするのがとてもかわいい。アニメでも可愛かったけど、実写でやると幼さが特に濃く出てくるらしく、かわいい。もうすっかりベイリーに夢中です。

 

ハリー・ベイリーが演じることが告知され、予告動画が公開されると、1989のアリエルを愛する根強い人々(ファンとは呼ばないでおく)が大反発。ツイッター上では誹謗中傷が絶えず、ハッシュタグまでできた。

その時の私の感想は、まだ映画作品を見ていないのだから何も判断ができない。ただそれだけだった。

 

結果的に、2023のリトル・マーメイドは素晴らしい作品として世に受け入れられたと思う。朝日新聞が何度か反響を追う記事を出したが、喜ぶ子どもたちの反応がすべてじゃないだろうか*3

キャスティングに疑問を持っていた人たちも「最高だった!」と好意的気持ちを持って映画館から帰ってきて感想を教えてくれて、きっと多くの人が同じような反応だったのだろうと思うしそうであって欲しいと思った。

 

彼女のインタビュー動画を拝見したところ、アリエル役のオーディションを受けるベイリー自身も、アリエルに対して「真っ赤な髪、青白い肌」*4のアリエルのイメージを強く持っていて自分が演じる権利をとりに行こうとしていることについて葛藤があったことを明かしている。

 

過去にディズニーが与えてきたイメージの影響を、ディズニー自身が覆そうと躍起した結果がリトル・マーメイド(2023)。「南部の唄」や「プリンセスと魔法のキス」で触れてきた人種差別の課題とは異なり、現実に基づかない想像上の海の王国アトランティカを舞台にした人種差別の課題への取り組み。

リトルマーメイド2023のメッセージは、シー・モンスターと人間が別々の世界で暮らす、でももしかしたら自分の隣に異なる種族が住んでいるかもしれないと仄めかした「あの夏のルカ」にも通じるものがあった。

ディズニーが作り出す映画・映像はこれからもどんどん変化してくし、ディズニーのテーマパークで取り組まれる雇用による変化も起こるだろう。でもそれに対して「やだ!」「好きだ!」ではなくて、これが今現在に人が作り出した作品としてどんな意味があるか?メッセージや価値があるか?を観る目を、私は持ち続けていきたいと思いました。

リトル・マーメイド2023、海やアイランドのトロピカルな雰囲気が好きな方、水の音に癒されたい方、そうでなくてもおすすめの映画です。どうやらまずは映画館での上映が先行しているようなのでまずは映画館へ。配信が始まったらディズニープラスでぜひ、見てみてください。

*1:Zoomウェビナー「中村香住×山本恭輔 多様化するディズニープリンセス〜日本の「ディズニー」と人種〜」(2023年4月21日19:00~21:00開催。ツイッターハッシュタグ #wezzymeeting )

*2:この方のツイートと記事URL、連なってるツイート合わせて参考にさせていただきました。https://twitter.com/shintak400/status/1673838110449475585?s=20

*3:朝日新聞デジタル「リトル・マーメイドのアリエル役に批判 潜む「プリンセス=白人」像」https://www.asahi.com/articles/ASR6V5RGHR6RUCVL02S.html

*4:https://twitter.com/westergaard2319/status/1681319661374410752?s=20